いまVRが伸びているのは教育やビジネスの現場
――昨今、VRの技術が注目されることが増えてきましたが、このトレンドをどのように見ていますか?
吉岡 VRが話題になり始めた最初の頃は、ゲームやアミューズメントで話題になりましたが、実際にアミューズメント系の会社が始めてみると、採算をあわせるのが難しいと感じる企業が多かったんですよね。それが2018年前半くらいでしょうか。そのため、2018年後半に、VR事業から撤退する企業が相次ぎました。
今でもエンターテイメント系で注目されることが多いですが、実際のところは、ビジネスにおける教育や研修などの場面がとても伸びています。現在のVRの取り入れかたとしては、エンターテイメントではなく、教育やビジネスなど、目的が明確な領域のほうが合っていると思います。エンターテイメントは、ビジネスベースで成長するにはまだちょっと早いかなという印象です。
――「まだちょっと早い」と感じるのは、どういった点でしょうか。
吉岡 たとえば、ゲームのコンシューマー向けコンテンツは、本体とコントローラーを別にして5,000円から8,000円ほど。ダウンロードプランがついて、やっと1万円を超えるくらいだと思います。VRで大ヒットしてもライトなコンテンツは単価も低く、ユーザー数が少ない市場だと売上は1億円いかない。ヒットしても何千万円という世界なので、投資しづらいケースも多いでしょう。コンシューマー系でのVRの導入が増えるには、視聴機器の価格が高い、コンテンツづくりに通常よりもコストがかかるなどの観点から、まだまだお手軽とは言えません。ですので今のVRのポジションは、教育やビジネスの領域ではないかと考えています。
細江 2016年と比べ、ニーズがはっきりしてきたように感じています。まさにいま、Z CAMというカメラを使い、「VR180(ワンエイティ)」という新しいVR規格で制作をしています。これは、視野が360度ではなく180度になっており、少し飛び出して見えるような感覚を味わうことができるものです。
たとえばアミューズメント施設にあるホラーコンテンツなどでは、後ろから突然驚かすなど、360度の空間であることがとても大事な要素なのですが、家庭の場合、後ろを振り向くという動作があまり適していないんですよね。そこで、180度で少し立体的に見えるようにし、コンテンツのクオリティをあげたほうが家庭の視聴としては向いているのではないか、という考えが表れているのがVR180です。使用される環境によってコンテンツのすみわけが生まれてきたのは、おもしろい変化だと感じています。
――では、企業がVRを使うニーズというのは、どのように変化していると感じていますか?
吉岡 建築関連や、デベロッパー、不動産、電機メーカーなど、現場で起こる可能性がある危険を疑似体験する用途などで使われるケースが最初は多く、そこから2年間でいろいろな活用を模索された上で、また危険の疑似体験に戻ってきたように思います。もちろんほかにも例はありますが、企業がVRに取り組むなかで重要なポイントのひとつが効果測定。こういった疑似体験は、効果測定がしやすく、かつ安全面に費用をかけている企業も多いため、取り組みやすさと効果のバランスが良いのだと思います。
細江 それ以外に最近トレンドになりつつあると感じているのが、トレーニングです。店舗での接客をVRの中で練習するなどの案件も増えてきました。アメリカの警察では、VRで強盗を制圧するトレーニングを行っているところもあるそうです。仮想空間内で、実際の現場に合ったトレーニングをしたいという企業は多いですね。
VRの空間内で存在しない人を相手にトレーニングすることのいちばんのメリットは、「失敗してもいい」ということ。VRのなかで何を起こすかはお客様側で操作できるようにシステムを構築することもあるので、「こんなことが本当にあったんですよ」という実際のお話を伺い、それを再現することもあります。