ベースは「商品」だからこそ、ブランドビジネスが直面している課題
一般的なブランディングの概念を超え、企業やブランドが自走するための支援を行うフラクタ。同社には、調査・研究を専任する社内機関「RI」が存在しており、Web3やメタバースの動き、その活用などについても日々分析を行っている。
それらの研究結果をもとに河野さんが最初に触れたのは、D2Cの現状だ。顧客と直接コミュニケーションをとっていくことでブランドを育て、強くしていくという考えかたを指すD2C。ここ数年で大きく成長したD2Cだが、その背景にはテクノロジーの発展がある。なかでも「ここ数十年で人類が初めて、それなりの規模を持ちつつダイレクトに人と人とがつながることができる」テクノロジーとしてSNSが世界中で使われるようになったことが、D2C実現に大きな役割を果たしたと河野さんは考える。
そんなD2Cの成長から見えてくるのは、現時点でのブランドビジネス全体の根幹が「商品」である点だ。そしてこれが、現在のブランドを考える際のポイントなのだと言う。
「当然ながらブランドビジネスは、商品があり、それをお客さまが購入し、商品が手元に届いて利用するという一連の流れがあります。そしてそのすべての起点は商品です。お金を払って対価を得る、つまり商品を得ることが、D2Cをはじめとしたすべてのブランドビジネスのベースになっている。今のブランドは、商品がなければお客さまとコミュニケーションをとることが難しいんです」
もうひとつ河野さんがブランドビジネスに関わるうえでのポイントとして挙げたのは「お客さまが購入しているのは商品だけではなく、それに付随する象徴的な体験」であるということだ。
「これはとくにD2Cで言われることでもあるのですが、商品を買う際にお客さまは、その機能やビジュアルだけではなく、それを得ることで自身の人生や生活がどのように変化するのかを重視しています」
ただここで改めておさえておかなければならないのは、先ほど触れたとおり、ブランドビジネスのベースはあくまでも「商品を買う」行為そのものだという点だ。たとえば、思想やスタンス、商品のデザインなどがとても気に入った家具ブランドがあったとしよう。ただ、すでに自宅で使用しているソファがある場合、どれほどそのブランドのソファに魅力を感じていたとしても、今あるものを捨ててまで手に入れたいと思うだろうか――。
「現代ではSDGsなどの考えかたも広まり、今まで以上に地球の環境に配慮した選択を求められるようになりました。そんな中ではとくに、持っているものを捨ててまで買いたいと思いづらくなっていますし、ブランド側も『今あるものを捨ててまで買ってください』と言うことは難しい。これが今のブランドビジネスに横たわっている大きな課題だと感じています」