クリエイターに求められる「共感力」
NFTの活用をはじめとしたメタなブランド活動が求められるようになると、どのような変化が生まれるのだろう。それに対し河野さんは「商品をつくるブランドと作品をつくるクリエイターの橋渡しにも価値が生まれ、その両者のコラボレーションがより重要な役割を果たすようになる」と考えを示した。そしてその際にカギとなるのが「共感」だと言う。
「たとえば、現在のインフルエンサーと呼ばれる人たちは、InstagramやYouTubeなどを活用して商品などのプロモーションをすることが多いと思いますが、これはインフルエンサーが持つ『拡散力』に比重が置かれています。ただWeb3においては、ブランドにいかに共感できるか、高いシンクロ率を保持できるかどうかが、非常に重要になるでしょう」
すでにこういった取り組みは始まっている。2021年にスキンケアブランド「クリニーク」がNFTを公開。リワードプログラムの参加者が、キャンペーンのテーマであるOptimist(楽観主義)に関するストーリーをInstagram、TikTok、Twitterでシェアすると、選ばれた3名はNFTをもらうことができ、人気商品10年分が提供される。
なぜブランドは、NFTの活用やクリエイターとのコラボレーションを盛んに行っているのか。この理由を理解するためのポイントは「お金の流れ」にあると河野さん。その流れを上手く活用しているのが、スターバックスだ。
スターバックスではプリペイドカードにお金をチャージし、店舗で使用することができるが、このチャージ金額をスターバックスは事実上負債額として計上している。スターバックスが発表した2018 Annual Reportによると、2018年9月時点のストアード・バリュー・カード負債および1年以内返済予定の繰延収益は約16億ドル(約1,686億円)であった。
「たとえば、新しい店舗をつくるために1,700億円を銀行から借りようと思ったら当然利子がかかります。仮にその利子が2%だとすると、それだけでおよそ34億円かかりますよね。ですが、プリペイドカードのチャージ金額としてお客さまから借りたお金であれば利子は発生しない。これによって、ビジネスとして優位な決断をすることが可能になります。つまりお客さまから投資してもらったお金を使って新しいビジネスを生むことができ、さらにそこで得た結果をお客さまにインセンティブとして還元することもできる。この関係性が、未来のブランドのありかただと思っています」
こういった動きを、ブランドがコンパクトな規模で実現していくのが、Web3の未来で起こることだと河野さんは語る。そしてそれを支えるために大切なのが「クリエイターの力」だ。
「今までクリエイターは、制作したものに誰か、または自身が値付けをし、それに対して対価をもらうことで作品をつくり続けていました。ですがこれからは、ブランドや企業とともにクリエイティブをつくり、それをもとに投資を集める。そしてその投資によって得たインセンティブをクリエイターが享受する――。今はまだ夢物語に聞こえるかもしれないですが、そういった未来が少しずつ近づいています。
これまでの常識を超えて、メタバースをはじめとしたさまざまな形でのコラボレーションなどを上手くつなぎ合わせ、象徴的な体験をつくっていく。これが、今後クリエイターが担うべき領域だと考えています」