クリエイターこそビジョン・ミッション・バリューの価値を否定してはいけない
――まず、現在の5つのコアバリューが決定するまでの道のりについて教えてください。
「一度浸透に失敗しているバリューをそのまま使うという手はないのか?」という声も、最初はもちろん一部であがりました。策定した僕としても愛着は感じていたのですが、バリュー策定当時のメンバーはかなり入れ替わっていましたし、今のメンバーで新たに作ったほうがオーナーシップも強くなると思ったので、一から作ることに決めました。
最初に行ったのは、「Value Committee」というバリューの再構築にコミットするチームを募ること。名乗りでた30名でキックオフをした際に「どうやって作り直していくか」をまず考え、「全員から意見を出してもらう」ことに決めました。
その次には、僕が重要だと思っているカルチャーを言語化。それをもとに社員全員に、「維持するべき価値観」「変えるべき価値観」「取り入れるべき価値観」を各3個ずつ、計9個を出してもらい、集まった900個の意見をすべて洗っていきました。
意見を見てみると、全員が共通して持っている言葉があったので、そういった言葉を中心に、キーワードを25個ほどの大きなカテゴリーにまとめていきました。
社内で度々すり合わせを重ねながら、7つにまで絞りました。バリューをもう一度浸透させるにあたり、その数を8つから減らすことで難易度を下げたい、とも考えていたのですが、結局ここまでやってもまだ7つ(笑)。この作業はまさに産みの苦しみでした。
7つに絞ったものをさらに言語化したあと、社内の全ユニットにその7つが書かれた紙を配りました。気になったポイントにマーカーでラインを引いてもらったり、「これって本当に重要?」という議論をユニットごとに行いながら、集まった意見をもとにより一層ブラッシュアップ。最後は、5つのバリューに落ち着きました。
――Goodpatchのコアバリューは日本語と英語の両方で明文化されています。英語もとても洗練されているように感じたのですが、コンパクトで瞬発力のある英語の表現はどのようにして生まれたのでしょうか。
英語と日本語のニュアンスを揃えるのにはとても苦労して、何度もブラッシュアップを重ねました。最初は日本語の直訳に近いニュアンスになってしまっていて、ネイティブスピーカーからすると長くて子供っぽい表現になってしまっていたんです。
たとえば「領域を越えよう」は「Go outside your composed」と表現していましたし、「Craft Details, Create Delight」も最初は「Play as a craftmanship」でした。最終的な表現は、Goodpatch Europaのマネージングディレクターであり、取締役のボリスが中心となって進めてくれました。英語はすべてネイティブのアドバイスをもらって作っているので、日本人からはなかなか出てこない表現になっていると思います。
――「会社の成長」と「組織崩壊の危機」という大きな出来事を通じ、経営者としてビジョン、ミッション、バリューの重要性に気付けたという土屋さんですが、クリエイターはこの3つをどう捉えるべきだと思いますか?
クリエイターと呼ばれる人たちこそ、ビジョン・ミッション・バリューの重要性を絶対に否定してはいけないと思います。デザインをする時は企業の目的や戦略、「らしさ」のような抽象度の高いものを理解していなければいけません。その理解なくなされたデザインにはまったく意味がないですし、デザインですらないと思います。
具体的な表層のデザインもとても大切ですが、それだけになるのではなく、抽象度の高い課題からつなげていくということもクリエイターの仕事。双方をつなぐときに、ビジョン・ミッション・バリューが確立されていれば、正しい方向に進んでいくことができると思います。