ジョイントベンチャーでデザイン支援をする意義
まず、「アナログ大企業を変革する、ジョイントベンチャー型デザイン組織のススメ」と題したセッションでは、グッドパッチのデザインストラテジストである長友裕輝氏が登壇。丸井グループとグッドパッチで、デザイン視点でDXを推進することを目的に立ち上げたジョイントベンチャー「Muture」の背景について解説した。
丸井グループはデジタル/デザイン領域の事業成長と、同領域の採用ブランディングの強化に課題を抱えており、これらを解決するためにグッドパッチからはデザイン人材、丸井グループからはビジネス人材が集いMutureを設立。「文化やブランドをしっかり作るには時間と労力がかかります。また既存の人事制度から切り離すためにも、ジョイントベンチャーの形をとりました」と長友氏は説明する。
Mutureの役割のひとつは、丸井グループのさまざまな事業のプロダクトチームにジョインし、UXリサーチやデザインプランニングといった現場の支援をすること。もうひとつは事業を横断したホールディングスに対して全社LTV観点、経営観点から支援をすることだ。
「これらを並行して行うことで、グループの経営層が見えていなかった現場の視点で提言したり、事業単位では解決できない問題をトップダウンで意思決定したりすることが可能です」と長友氏は言う。Mutureは経営と現場をつなぐハブとして機能しているのだ。
それだけでなく「Muture」という看板はデザイナーやPM人材の採用にも活きており、採用市場との接点にもなっている。さらに、グッドパッチの顧客である企業とのシナジーも生まれており、ともにビジネスを行おうとする動きも出てきているという。
長友氏は「Mutureはどっちつかずの組織であることを逆手に取り、組織変革のハブになっています。デザイン組織をつくるバリューを考える際の、ひとつの参考になれば嬉しいです」と語り、自身のパートを締めくくった。
続いて丸井グループから出向しMutureの代表をつとめている芝尾崇孝氏が、同社の取り組みや発揮している価値について紹介した。
行ったことのひとつめとして芝尾氏が挙げたのは「構造化」だ。事業の歴史が長いからこそ把握しづらくなっている状況や課題を構造化するため、ガートナーが提唱した4層フレームワークなどを活用。優先して着手すべき箇所を明らかにしていった。そのあとには顧客体験を構造化。ユーザーリサーチをしながらプロダクトの方向性を明確にし、さらには組織のリレーションの構造化も同時に行うことで、コミュニケーションパスも適切な形に組み替えた。
ふたつめは、事業部のメンバーに向けたデザインのインストール。事業を推進するための部門とデザイン組織がコミュニケーションをとる際、専門性が不足しているがゆえの齟齬が起こりがちだ。幸い丸井では「デザイン知識は今後重要になっていく」という認識が全社的に浸透しつつあったが、さらにMutureは具体的なスキルマップを作成。知見を獲得するためのサポートを行った。芝尾氏は「実際にSlackのグループに入ってもらったり、一緒に研修をしたりするなどして、安心して学べる環境をつくっていきました」と話す。
3つめは、アナログな大企業によくある「ふたつの壁」を打破するためのリデザインだ。ここで言うふたつの壁とは、意思決定のプロセスで上司の突破が障壁になる「縦の壁」と、部門のサイロ化によって協力関係が欠ける「横の壁」。縦の壁に対しては、どのように上長に提案をあげるかではなく「顧客に向き合うマインド」を醸成するべく、1on1などを行った。また横の壁を打破するためには、現状の組織構造をまずは可視化し、経営層と対話しながら横断組織の構築を進めていると言う。
この成果について芝尾氏は「まだまだこれから」と前置きしたうえで「上意下達の構造を脱し、横断型のプロジェクトが立ち上がってきています。今後もゆるやかに変化を続けていきたい」と抱負を語った。そして最後に、外部のデザイン組織とともに進めるジョイントベンチャーならではの価値に触れ、セッションを終えた。
「私自身、Mutureでデザイナーと関わることにより、顧客視点の重要性に改めて気付かされました。デザイナーのハードスキルだけでなくソフトスキルを組織に取り入れていくことで、組織変革に大きなインパクトを与えることができる。またジョイントベンチャーという第三者の視点だからこそ、忖度なく向き合えることも大きな価値だと感じています」