フェーズごとに振り返る、SmartHRの組織づくりとその試行錯誤
続いて「プロダクト開発のためのデザイン組織――SmartHRがぶつかった壁とその乗り越えかた」に登壇したのは、SmartHRのプロダクトデザイングループ 佐々木勇貴氏。組織のありかたは「まだまだ模索中」としたうえで、組織の変遷ごとに取り組みを紹介した。
人事労務などバックオフィスの効率化や経営改善のためのプロダクトを提供しているSmartHRでは、各機能を「プロダクト」と呼び、そのプロダクトごとにチームを用意。半期ごとの会社全体のミッションに合わせて、その役割を定義している。
2019年、プロダクトデザイン組織の「立ち上げ期」は、3人からスタート。佐々木氏はその時期を次のように振り返る。
「それまではプロダクト開発からビジュアルデザインまで、あらゆるデザイナーがひとつの部署に所属していたため、プロダクトデザイナーの役割が明確ではありませんでした。さらに、UI設計のプロセスも確立されていなかった時期でした」
その後、専門性に即してデザイナーを分割し、マーケティングやブランディングに特化する「コミュニケーションデザインチーム」と「プロダクトデザインチーム」が誕生。同時にコンポーネントライブラリ開発を通じたフロントエンドエンジニアとの協働によって、プロダクトデザイナーへの期待値も揃えた。またワークショップや勉強会を実施し、プロダクトマネージャーと相互理解の機会も積極的に設けたのだ。
次のフェーズは「拡大期」。「開発」のための実務が爆発的に増えた時期だ。それにともない、ふたつの課題と必要な取り組みが浮き彫りになった。
- 課題1)専門性を持った多様なプロダクトデザイナーの採用
- 課題2)複数のプロダクトを開発するために、インターフェイスの開発効率性を担保すること
採用課題に対しては、「象徴的なイメージを掲げてのブランディング」「スクラム採用」といった対策を講じた。とくにブランディングでは、「自分たちの色を強く出すことで、その“ノリ”に合う人を集める」ために「7つの大罪」というユニークなキャッチフレーズを考案。実際にそれらの施策は成功。「デザインシステムの構築フェーズであることも求心力があったのではないか」と佐々木氏は振り返った。
続いては「フィーチャーチーム期」というフェーズ。フィーチャーチームとは、UXデザインや開発などすべての機能を兼ね備え、メンバーのみでリリースまでたどり着けるチームを指す言葉だ。
新規プロダクトの立ち上げもあり、当時メンバーは9名へ増加。このときの課題は、多様なデザイナーがそれぞれ振る舞うことで、再び期待値のズレが生まれていたことだ。これに対し、各人のスキルマップを可視化し、地道なコミュニケーションや関係構築につとめたほか、モブデザインやデザインシステムの推進によりデザイナーがチームに溶け込めるよう工夫した。
ところが続く「ビジョン駆動期」では、フィーチャーチームの推進によりプロダクトデザイナーが「過剰に局所最適されたこと」が課題となった。ほかのチームや事業全体への貢献意識が薄れ、スクラムによって「本来もっと多くのプロダクトに貢献できるプロダクトデザイナーがひとつのチームに縛られてしまう」「チーム内のコミュニケーション密度が過剰に濃くなり、合意形成にコストをかけすぎてしまう」などの傾向が見られたのだ。
そこで、グループビジョンを見直し、中長期で組織が目指すべき姿を設定。また、プロダクトデザイナーのスクラムへの関わりかたをアップデートし、「チームにどっぷりとコミットするのではなく、複数のチームを外から支援することもできるように期待値を調整」した。さらに、個人の取り組みがグループや会社のビジョンに紐づき、局所化することを防ぐべく、目標設定のガイドラインも用意するなどの取り組みがなされた。
2023年から現在は「マルチプロダクトとしての価値提供が強烈に重要になってきた」時期。今まさに、大きな変化が起きていると佐々木氏は言う。
「プロダクトごとのUI/UXのブレがいよいよ看過できなくなってきました。『UI/UXが重要』などといったマジックワードでは事業貢献の説明を果たせない――。そんな、以前よりも高度な壁が見えてきました。これらをどう乗り越えていくかは、現在進行形の課題です」
佐々木氏は「個人の目標と組織のミッションをつなぐ、グループのミッション・ビジョンがとても重要です。これからデザイン組織を立ち上げる方はぜひ作ってみてほしい」と呼びかけたうえで、次のようにセッションを締めくくった。
「前年の方針や事業の動向が、翌年の組織課題となって表れる。その繰り返しであるように感じています。ただそれは事業が成長している証。事業の要求に応えるべくストレッチをかけていくのが、正しい組織づくりではないでしょうか」