今後は「アイディアの時代」 レイ・イナモトさんが語る、ブランドシフトの勘所とクリエイターが磨くべき力

今後は「アイディアの時代」 レイ・イナモトさんが語る、ブランドシフトの勘所とクリエイターが磨くべき力
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2023/11/14 08:00

 ChatGPTの登場以降、生成AIは話題に事欠かない。生成AIをはじめとする最新のテクノロジーは、クリエイティブ制作に大きな影響をもたらすことはもちろん、ブランドを取り巻く環境も確実に変わりつつある。こうした変化を味方につけるためには、企業やクリエイターはどのような思考を持てば良いのだろうか。今回は、ニューヨークを拠点にグローバルに活躍するI&CO 創業パートナーのレイ・イナモトさんに取材を敢行。ブランドとクリエイターにとらえるべき変化などについて話を聞いた。

4つの視点でとらえる、AI時代に必要なブランドシフト

――まず、生成AIをどのようにとらえているのかをお聞かせください。

2020年から2022年後半くらいまでは、Web3やNFT、メタバースといったワードが注目されていましたが、2022年11月にChatGPTが発表され一気にAIが盛り上がりました。しかしAI自体は、1955年の論文に「artificial intelligence」という言葉で登場しており、目新しいテクノロジーではありません。すでに60年以上の歴史があるわけです。

昨今話題になっている生成AIの使いかたは「オペレーション」「クリエーション」「トランスフォーメーション」という3つのパターンに整理できると考えています。オペレーションは効率化を目的としたAIの使いかた。クリエーションは何かを作るときに使うAI。そしてトランスフォーメーションは今までやってきたことの変革のために使うAI、の3つです。

今盛り上がっているAIは、効率を上げるためのオペレーションAIに偏っており、活用することで具体的に何が良くなるのか、今後どのように変わっていくかははっきりしていません。ただ、それが悪いことというわけではない。これまでにテクノロジーが発展してきた過程もそうでした。今は非常に話題を集めている時期ですが、アメリカでは来年の春から夏にかけて不景気になるのではないかとも言われている。そのタイミングで一度落ち着き、その後また大きく伸びていくと予想しています。

――そんななか、ブランドに求められることにはどのような変化があるのでしょうか。

オペレーションAIは、今までにないスピードとコストで、モノをつくり発信することを可能にしました。20~30年前に、フィルムカメラがデジタルに移行したときと同じような現象です。

変革のときでもあるAI時代に求められるブランドシフトには、大きく4つのポイントがあると考えています。

ひとつめは「スケールからスピードへ」。ここ20年ほど、GoogleやFacebookに代表される企業がとにかくスケールを目指し急成長してきました。しかしAIの時代は、スケールだけではなくスピードも求められる。それも、いつも速く動けば良いわけではなく、適切な状況で適切なスピードを使う、つまりスピードの使い分けが求められます。

それが上手いと思う企業のひとつが、Googleです。というのも、GoogleはAIを長年研究しており、Gmailの文章推測はじめ、プロダクトのところどころにAIのような機能が芽を出していましたよね。生成系AIも技術的にはできていたが声高に言っていなかった。それが、ChatGPTの発表以降、ものすごい勢いでAIを組み込んだ機能を発表しています。アクセルの踏みかたが非常に適切だと感じました。

もちろん、大企業でなければスピードが出せないわけではありません。たとえば、当時レストラン業界はデリバリーのビジネスにピボットする傾向がありましたが、そのなかでも高級レストランは、出前やデリバリーをしにくいため経営が厳しくなりました。しかし、そこを上手く乗り切ったのが青山の「ナリサワ」というレストランです。パンデミックで外出ができないとしても、誕生日や記念日といったお祝いごとは変わらず存在していることに注目。それをサポートするおせち料理のような美しい食事を届けられないかと考え、数週間でデリバリー向けのメニューを提供し、この難局を乗り切ったのです。こうしたナリサワのように、上手くスピードを使い分けていた中小企業も多かったですね。

ふたつめは「取引から会話へ」。これはブランドの生活者との付き合いかたに関係しています。SNSなどで個人が公にシェアする流れは注目されてきましたが、実はその裏側でメッセンジャーやLINEといったツールによる個人同士のコミュニケーション、会話も非常に増えました。1対1の会話ツールを利用する人の数が、マス向けのソーシャルメディアの利用者数を超えているというデータもあります。

また、お客さんがブランドに求めているのは、店員さんの知識などソフトの部分。これまでは利便性に特化したデジタルの成長が目立ちましたが、今後は人と人のつながりを良くするためにAIを活用することが増えていくのではないでしょうか。実際に先日発表されたChatGPTのアップデートでは、人間と対話できるようなレベルまで達していることもわかってきた。この技術は、カスタマーサービスなどに活用できるでしょう。

3つめが、「USP(unique selling proposition)からPOV(point of view)へ」、つまり「独自の売りから独自の視点へ」のシフトです。今はAIやデジタルの技術によってほかを真似することが簡単になっています。機能面は流行してもすぐに真似されてしまうため、独自の視点を磨いていくことが今後さらに重要になります。

また、今はパーソナルブランドの力も大きい。InstagramやTikTokアカウントのトップ100に入るのは、90%以上が個人アカウントであることからも、人々の興味は「人」であり、企業やブランドではないことがわかるでしょう。この流れも、さらに加速していくのではないかと思います。

そして4つめは「生成から創造へ」。生成AIの普及で、誰もがおおよそのものを簡単に作ることができる時代になりました。差別化をしていくためには、独自の視点にもとづき、ほかにはないAIの使いかたをしていかなければ、結局大勢の中に埋もれてしまいます。

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