デンマークで受け取った「力を貸してください」の便り
SPEEDAのデザイナーは6名。そのうち3名がこの日話を聞いたリードデザイナー、残りの3名がジュニアデザイナーだ。
デザイナーチームの中心である平野さんは、自身のデザイン会社も持ちながら、ユーザベースのデザイン組織づくりに奮闘している。ジョインしたきっかけは1通のメッセージだった。
「2年前にデンマークのデザインスクールに留学をしていて、その帰国5日前にユーザベースの採用担当者からLinkedInで『力を貸してください』というメッセージを受け取ったんです。SPEEDAのデザイン組織の立ち上げを任せられる人を探しているんです、と」(平野さん)
その訴えを聞き、すぐにおもしろそうだと思った平野さん。自身の会社でクライアントワークを続ける中で、意思決定の壁を感じていた。本当に良いものを作るためには頼まれたものを作るだけでは限界があると感じ、インハウスにも興味を持っていたのだ。また、BtoBビジネスのUXやUIは、まだ日本で多く議論されていないという点においてもやりがいを感じた。
そんな平野さんが新しい組織を作るために採用したのが茂木さんと横田さんだ。茂木さんは新卒から3年間エンジニアとして働いた後、デザイナーにジョブチェンジ。5年間ウェブやアプリのデザインをした後、SPEEDAに入社した。
「結婚を機に転職活動を始めましたが、SPEEDAへの入社の決め手となったのは平野さんです。面談で初対面にも関わらず3時間も話し込んでしまって(笑)。これからもっとUXを極めたいと思う中で、この人から学ぶことはたくさんあると思いました。もし、平野さんと最初にお話しなかったら、ここにいないかもしれませんね」(茂木さん)
スキル先行で失敗 ミッション・バリュー徹底への切り替え
一方、ビジュアルデザイナーとして経験を積み上げてきた横田さんが入社を決めたのは、その組織のありかただったという。
「何かを作るときに、意思決定をする人たちが一枚岩になっていないと難しいですよね。ユーザベースのミッションとバリューを見た時に、この会社はみんなが同じ方向をみていると伝わったんです」(横田さん)
ユーザベースには、「経済情報で、世界を変える」というミッションがあり、さらにバリューを「7つのルール」でまとめている。
- 自由主義で行こう
- 創造性がなければ意味がない
- ユーザーの理想から始める
- スピードで驚かす
- 迷ったら挑戦する道を選ぶ
- 渦中の友を助ける
- 異能は才能
ミッションやバリューを掲げる会社は多い。しかし実際は、それを浸透させることこそが難しい。その点においてユーザベースはとにかく徹底している。バリューである「7つのルール」をさらに「31の約束」としてDO/DON'Tでわかりやすく説明されているのだ。
「この資料をみたとき、これまで働いてきた中で悶々としていたものがすべて解消されたように思いました。そのくらい、深く共感しました」(横田さん)
「普段の会話でも会議中でも、これはバリューにのっとった行動なのか?と意識して確認するシーンが多いんです。バリューはどれも基本的なことです。でも、その基本こそが奥義というか、大事なことばかりが集まっています。これをみんなが本当に実行できたら、めちゃくちゃ強い組織になると感じています」(茂木さん)
平野さんがバリューやミッションを重視してきたのは、最初の失敗からだった。クライアントワークを長くやってきた経験から、同じようにスキルベースでチームを育てていこうとしたところ、いわゆるマネジメントの問題が起きたのだ。
「僕のやりかたが怖いと捉えられてしまったり、7つのルールのひとつ『自由主義でいこう』をそれぞれが都合よく受け取ってしまっていたり、チームはバラバラ。そこでいま必要なのは、会社やチームへの帰属意識だと考え、スキルを追うことをやめました。そして日々1on1で向かい続け、ミッションとバリューを理解してもらうように努めました」