メタバース制作で成果を出すポイントは「また訪れたくなるか」
――成果をあげているプロジェクトの共通点を教えてください。
柴垣 結果が出るのは、繰り返し訪れたくなるような会場をつくりあげることができたときです。
たとえば、クライアントが期待しているのが社員同士の交流を活性化させるためのメタバース空間であれば、コミュニケーション量に応じて、空間内のオブジェクトが育っていく仕掛けを加えることで、メタバースに入るモチベーションをアップさせるといった具合です。
成田 ビジネス視点でも「また行きたくなる」ことは重要です。ひととおり回ったら体験自体は完了してしまうため、スタート地点に立ってただ動画を観るような空間ではおもしろくありません。
たとえば○×クイズを行うのであれば、UI上で○か×かを選択するのではなく「○は左のエリアに、×は右のエリアに移動する」と実際に体験するほうが楽しいですよね。メタバースにはこうした「身体性」があるため、周りの人と一緒に取り組み、そこで出会った人と違う場所へ出かけるといったつながりやコミュニティが生まれやすい。メタバースは、コミュニティマーケティングという観点からも効果が見込める施策なのです。
柴垣 近鉄不動産さんがcluster上で公開した「バーチャル志摩グリーンアドベンチャー」も反響が大きかったですね。まだオープンしていない施設を開業より前にバーチャル空間で体験してもらったことで、実際の施設の予約にもつながりました。
――交流を促したりする際に効果のあるcluster上の機能はありますか?制作時に意識していることとあわせて教えてください。
柴垣 clusterでは、ワールドやプレイヤーにさまざまな変化を起こさせる「ギミック」という仕掛けを設置することができます。参加者が集まることで初めて達成できるギミックを用意し交流を促進させるなど、多人数で関わることによって変化が起きる仕組みも効果があります。これらを簡単にプラットフォーム上で設計できる点も、clusterならではの特徴です。
そのなかで心がけているのは、メタバース空間に入ったときのファーストビューです。クライアントの目的をおさえながら課題を解決し、そのうえでどのようにビジュアルのインパクトを残すのか。ここはCGデザイナーとしての腕の見せどころです。
成田 設計する際には、「人溜まり」をつくることもオススメです。コンテンツを詰め込んでしまうとユーザー同士が立ち止まって話す機会がなくなり、ただ空間を一周するだけになりがちです。それを防ぐため、どこかに行く前にふらっと立ち寄って仲間と話すことができる、交差点のような場所を設置すると良いでしょう。これによって、ユーザーの交流を活性化することができます。
たとえばcluster公式では「clusterロビー」という最初に訪れる場所としての「人溜まり」を用意しています。ここにはメタバース初心者も、長年使用いただいているユーザーも自由に出入りしており、立ち話や雑談をしている姿が日常的にみられます。クライアントさまのイベントではやはり「コミュニケーション」や「コミュニティの醸成」を重要視されていることが多く、そういった場合はこのような「人溜まり」を作っていただくことを提案しています。
また空間のどこに滞在したかをデータで正確に把握できるため、人がどこに溜まりやすいかも一目瞭然です。そういったデータは、広告を掲出するときに役立てることができます。
柴垣 そういったデータづくりにもCGデザイナーが関わっています。clusterは、VRゴーグルだけでなく、スマホからPCまで幅広いデバイスで利用することができるので、データ量の軽さは業界でもトップレベルだと自負しています。そのためデジタルツイン制作の案件で、「もとのデータがあるけれど、そのままだと重くて使えない」場合でも、その優れた軽量化技術を応用することでデータを軽くすることもできる。そのうえで、新しい使い道を提案することが可能です。
顧客の課題解決も、クリエイティビティを発揮する場面のひとつ
――クラスタ―のクリエイティブにおける強みは、どういった点にあるのでしょうか。
成田 そもそもクリエイティブの良さは、一問一答では表現できないものだと思っています。ひとつの課題を回答するときに一言で返すのが言葉だとしたら、複数の課題をひとつの答えで解決できるのがクリエイティブだと思うからです。
こんな体験をしてほしい。帰ったあとにはこんな写真を投稿してもらえたら――。clusterの仕組みを組み合わせることで、そういった複数の要望をひとつのクリエイティブで解決できる。そういった点も、クライアントさまから高い評価をいただいている一因ではないかと感じています。
以前clusterでは、アニプレックスがウォルト・ディズニー・ジャパン協力のもと制作するスマートフォンゲーム『ディズニー ツイステッドワンダーランド(Disney Twisted-Wonderland)』の「バーチャル ハロウィーンイベント2021」を開催しました。このゲームは2Dでのみ展開していたため、3Dでイベントを行う場合、建物の裏側や奥行きなどの存在しない部分も想像でつくる必要がありますが、私たちはクライアントの監修のもとしっかりクリアすることができた。要望に応えられるCGスキルを持っていることも、クリエイティブ面の大きな強みです。
柴垣 「クリエイティビティ」と「課題解決」は両立しづらいイメージがあるかもしれませんが、相反するものではないと感じています。顧客が抱える問題をどのようにスマートに解決し、形にするかを考えることも、クリエイティビティが発揮できる場面のひとつ。クライアントの最重要課題を見極め、それを一気に実現するクリエイティブづくりは意識しています。
またクライアントがメタバースでできることのイメージが湧きづらいことから、自然とCGデザイナーから提案できる幅も広くなります。クラスターではひとりのデザイナーが会場をまるごと制作するなど分業制とは対極なつくりかたをしているため、プラットフォームの枠組みがあっても創造性を発揮しやすい環境だと感じています。CGデザイナーの働きかたとして、ここまで裁量が大きいことも珍しいのではないでしょうか。