制作で意識している「スケール感」 今後は「新たな体験づくり」と「海外進出」へ挑戦を
――印象に残っているプロジェクトはありますか?
柴垣 東京発のイノベーションを創出し、未来の都市モデルを発信する国際イベント「Sustainable High City Tech Tokyo = SusHi Tech Tokyo」を推進する取り組みの一環として制作した「Virtual Edo-Tokyoプロジェクト」のバーチャル会場です。そのなかで江戸城を再現したのですが、学術的にも正しく表現したいとの思いから、事前に資料をリサーチしたり、皇居周辺へロケに行ったりと準備を重ねました。最終的には絵巻物を立体にしたような雰囲気に決めたのですが、海外の方からの評判にも手応えが感じられました。
オブジェクトのディテールなどももちろん気にかけますが、資料をもとにCGを作っていく作業でとくに注意を払ったのは、「実際に体験したときのスケール感」です。ここが大きく狂ってしまうと「作りものっぽさ」が出てしまい、体験した人が没入しきれないからです。
成田 難しいのは、ただ実際のスケールで作れば良いわけではないことです。たとえば競技場をCGでつくるときに実際に一周歩くと10分かかるからと言って、バーチャル空間での移動にも同じ時間をかけると体験が間延びしてしまう。そんなときに、違和感のないスケールでありながら壮大さを失わない、といったバランス感がとても大切なのです。
――柴垣さんはゲーム業界でもCG制作の経験がありますが、双方を比べて感じる違いはありますか?
柴垣 スキルやツールの使いかたでとくに異なる点はないと思います。一方、大きく違うと感じるのは「デザインの方向性」です。ゲームでは基本的に、あらかじめ設計したものどおりに体験してもらうことが重要です。しかしメタバースでは、体験を通してユーザー同士の交流やコミュニティの発生を促したり、最初はいちユーザーだった人がメタバース上で活動するクリエイターになっていったりと、体験後の変化までを想像することが重要です。
またそんなメタバース空間をつくるうえで、僕たちクリエイターの自由度も非常に高い。アイディア次第で何でもできてしまうと思います。技術的な制約はもちろんありますが、それもテクノロジーの進化によって解決されていくのではないでしょうか。
個人としては、新しい技術によって世の中がどう変化していくのかを想像しながら関われることがとても楽しいです。CGの制作方法やできることもますます増えていくでしょうし、将来的に人々が「CGをCGのまま体感したい」と考えたときにメタバースは重要なプラットフォームになるはず。それを最前線で実感できることも醍醐味だと思います。
――最後に、今後の展望やチャレンジしたいことについてお聞かせください。
柴垣 ただ「CGを上手く制作する」だけでなく、次々に登場する新しい技術と付き合っていけるようにしていきたいですね。AIを使ったCG制作もそうですし、それらの技術を応用して既存のCGの枠を超えるような体験づくりも進めていけたらと思います。
成田 ビジネス視点では、海外展開に挑戦していきたいです。たとえば企業がOEMでメタバース空間を作ろうとしたら、アバターや多人数が同時にアクセスできる機能などが必要になりますし、サーバーやエンジニアリングについても気を揉むことになるでしょう。しかしclusterをプラットフォームとして活用すれば、そういった懸念はすべてなくなります。ただ、プラットフォームとしての価値がとても大きくフレキシブルに企業案件に対応できるclusterだからこそ、日本だけで留めておくのはもったいないとも感じています。
海外の主要なメタバースに目を向けてみると『Roblox』や『Fortnite』のようなゲーム性の高いものが多い印象です。しかし意外と、企業の課題解決のために活用されているグローバルなプラットフォームはありません。もちろん私たちも海外での認知度を高めていかなくてはなりませんが、クラスターのクリエイティブ力は世界でも通用すると確信しています。