風向きが変わったのは「免許を取得しホンダのバイクを買ったこと」
――そうやって5年ほどクリエイティブ局に所属したのち転職を決意した理由や、そのなかでもアクセンチュア ソングを選んだ決め手を教えてください。
きっかけは大きくふたつあります。クリエイティブ局にいるときにGoogleに出向させてもらう機会があり、東京とシドニー、シンガポールのオフィスでCDの仕事をさせてもらったのですが、そのときに「意外とどこでもやっていけるのかもしれない」と漠然と思ったんです。それまでは、「社内でどうすればクリエイティブ局に異動できるか」しか考えていなかったのですが、いざ外の世界に触れてみると、自分自身でかけていた「呪い」に縛られている必要はないのかもしれないと気づいたんです。そんな思いがずっと頭の片隅にあったことが、転職を考えるようになったひとつめのきっかけです。
もうひとつは、コロナ禍により家で仕事をするようになったタイミングで、自身のスキルと人脈を使いまわしているような感覚に陥ったことです。このまま40代に突入していっても、自分が進化したり、レベルアップしたりするイメージが持てなくなっていることに気づいたんです。そうなったら、海外で働いてみる、違う会社に転職してみるなど、大きく環境を変えないと自分にも変化を起こせないのではないかと感じ始めました。
さまざま選択肢があったなかでDroga5に決めたのは、自分が今まで携わっていたクリエイティブの領域を、広告以外にも広げていきたいと思ったことがひとつ。もうひとつは、アクセンチュア ソングがもつグローバルネットワークを活かした仕事をしてみたいと考えたからです。
Instagramの日本でのブランドキャンペーンを振り返る
――Droga5にジョインしてから印象に残っているプロジェクトはありますか?
今年の夏にリリースした、Instagramの日本のブランドキャンペーンです。
このキャンペーンで伝えたかったのは、「Instagramを使えば新しい友だちができたり、友だちともっと仲良くなれる」ということ。
なぜ、この仕事を僕が任されたのかというと、僕が生粋のインスタユーザーだったからです。僕はコロナ禍で家から出られなくなってしまったことをきっかけに、自分の服をもっと楽しみたいという思いから、毎日自分の服装を撮影して投稿する「#自撮り修行」を1日も欠かさずに続けています。気づけば、はじめてから約1,300日を超え、もう歯磨きのような日課になっています。そのためこの仕事がチームに舞い込んだとき、自分でも「この仕事をやるのは僕しかいない」と思いました(笑)。
――具体的なアイディアはどのように考えていかれたのですか?
七転八倒しながら考えていたのですが、「これもなにかのきっかけ」という言葉が最後に出てきたのは、チームでディスカッションをしていたときに「どんな小さいことでも、なにかのきっかけになるよね」という話があがったことからです。
僕の「自撮り修行」は、結果としてInstagramのキャンペーンを担当するきっかけになりましたが、それだけでなく、自撮り修行をしていたことで知り合った人もたくさんいますし、新しい仕事のチャンスにもつながっています。突如イギリスのキャスティング会社から「某配信プラットフォームの大ヒットリアリティ番組に出ませんか?」と連絡をもらいオーディションを受けたこともありました(笑)。もちろんこれらは、自撮り修行を始めた日には到底想像できなかったことです。しかし、そういった小さなアクションが、自分の人生を好転させる大事なきっかけになることを実感しましし、それを僕は信じている。だからこそその思いを「これもなにかのきっかけ」というコピーに込めました。
またこのキャンペーンでは、「15秒ミュージック powered by Instagram」を企画制作しました。Instagramのストーリーズで使用できるミュージックスタンプの長さが15秒であることから、全8組の人気アーティストに依頼し、書き下ろしを含め15秒で完結するオリジナル楽曲を制作してもらいました。このアイディアが生まれたのは、「最初から15秒で使うための、専用の短い尺の音楽があったらもっと使いたくなるのではないか?」という出発点からです。
この仕事のなかで改めて実感したのは、「自分の考えている”当たり前”は、当たり前ではない」ということです。
10代のInstagramユーザーにインタビューしていると、Instagramのビデオチャットをつなぎながら中間テストの勉強をしたり、友だちのグループごとに複数のアカウントを使い分けていたり、Instagramをメッセージアプリのように使っていたりと、30代の僕からするととても想像ができない使いかたをしていました。そのようななかでも僕はCDとして、「自分が思う良いもの」にも着地させなければならない。10代がこのキャンペーンに触れたときに違和感がないように、一方で30代の僕自身が「良いと思うもの」になるように――。そのバランスにとても苦労しました。