逃げずに「恥」と向き合い続けるワケ
――職種が変わりながらも10年以上広告クリエイティブに携わるなかで、どのような変化を感じていますか?またそのなかで意識していることはありますか?
一言で言えば、「複雑になった」と思います。僕が社会人になった2011年は、「シンプルな機能訴求を面白くやる」プロモーションがカンヌライオンズでも賞をとっていましたし、単純に面白いことをやれば勝てる時代だったような気がします。
当時は制作時に、SNSでの声やリアクションを今ほど気にかけていなかったですよね。それはいちばん大きな変化ではないでしょうか。SNS上のリアクションはコントロールできるものではないですが、企業のコミュニケーションを担う人からすると、なるべくネガティブな状態にはしたくない。また広告に限らず、モノをつくるハードルは下がりコンテンツの数は増加していますが、そのようななかでも目を留めてもらわなければいけません。こういった複雑な要素が絡み合うなかでどのように成果を出していくかは、格段に難しくなっていると思います。
そのなかで意識していることは大きくふたつあります。ひとつめは「自分が良い仕事と思わないものは作ってはいけない」ということ。もうひとつは、少しお利口な答えに聞こえるかもしれませんが、「自分自身が誠実であること」です。ちゃんと自分で体験して、たくさん笑う、たくさん感動する。自分の感情のフィルターのようなものが、濁らないように、クリーンな状態を保つことは大切な気がします。あとは、なるべく人の悪口は言わない(笑)などででしょうか。
くわえて大切にしているのは、世代の違いなどから「なぜこの人たちがこんなに熱狂しているのか」を自分の価値観からは理解できないときでも、何か自分にとって気になるポイントがあれば、その世界に一回入ってみること。
たとえば何気なく観たテレビ番組で、少しでもおもしろいかもしれないと感じた部分があれば一度食いついてみるといった具合です。ただ観ただけでは何も残りませんが、一回自分ごととして考えてみると何か得られるものがあるはず。そのため僕は、担当する商品やサービスも、基本的にまずはユーザーになります。その商品やサービスへの愛をどこに見つけられるかを考えるために行動を起こすこと。これを心がけています。
――最後に、これからチャレンジしたいことについて教えてください。
具体的な仕事面で挑戦したいことはふたつあります。幼少期を海外で過ごした経験があるためか、新卒のときから「日本そのものの広告を作りたい」と考えてきました。補足すれば、日本だけでなく海外の人が日本をもっと好きになるような仕事がしたいということです。この気持ちは今も変わっていません。そのために今チャレンジしたいのは、アクセンチュアのグローバルネットワークを活用し、日本発のブランドが海外に進出するのをサポートするような仕事です。
もうひとつは、コンサルティング企業であるアクセンチュアならではの、よりビジネスに直結するような仕事ですね。企業のコミュニケーション単体だけではなく、経営層の人たちと話しながら事業成長に直接関わる部分でクリエイティブを取り入れたり、新しい事業を一緒に考えてみたり……。戦略立案やシステム開発など、さまざまな強みを持つメンバーと一緒に、企業の変革を一丸となって支援できることもアクセンチュアの強みだと思うので、そういったプロジェクトに関わっていきたいです。
もう少し抽象的な部分で言えば、もっと自分をパワーアップさせていきたいです。Instagramのキャンペーンに携わる前ですが、自分自身のInstagramのアカウントを運用していくなかで、動画も作れるようになると良いのではないかと考えていました。ちょうどInstagram上でリールが始まったタイミングだったこともあり、「大学生の知り合いと月に1回渋谷に集合し、同じお題を元に30分で撮影・編集をして見せ合う」という遊びをしていたんです。そうすると大学生のみんなが、クリエイティブのプロである僕よりもよっぽどクオリティの高い動画を、いとも簡単に作れることにとても衝撃を受けました。
プロのCDが、同じ時間と同じお題で撮影編集した、しょぼい動画を大学生の前でさらす。これは恥ずかしいことですよね。ですが、恥を感じない状態は、基本的にコンフォートゾーンにいることだと考えてみると、「恥ずかしい」と感じているのはチャレンジできている証拠。だからこそ、恥ずかしいと思うような体験や経験を通じて、自分自身をさらに進化させていくことができたらと思っています。