デザインとビジネスの関係は“もっと”深い カオナビ外部CDO玉木さんがこれまでのキャリアを振り返る

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2024/12/23 08:00

デザインが完璧なら、カスタマーサポートをなくすこともできる

諸石 そんななか、カオナビと出会ったんですね。

玉木 起業前に少しフリーランスとして活動していた時期があり、企業の支援をするためにサンフランシスコに出向いたりしていたのですが、サポートしていた脳科学の領域の第一線で活躍しているある国立大学 研究室の教授から「おもしろい考えかたをしているから社会に貢献したら?」と言われたんです。それを機に、デザインと銘打たず、自分のバックグラウンドを活かしてAIの領域で起業しようと思いました。

そのときにテーマにしたのが、忍耐力、道徳心、コミュニケーション力、人柄といったものを数字にしてみようということです。たとえば人柄を数字にできたら、学歴史上主義ではなくなるかもしれないですよね。それを筑波大に持ちこんで提案したところ産学連携が決まり、自分の考えた「人柄を数字にする社会実験」が始まるわけです。それをしっかり“ビジネスとして”やるべきだと思い、いろいろな企業に声をかけていたところ、拾っていただけたのがカオナビでした。

カオナビの代表からは「非連続性をつくってほしい」と。デザイナーはいるものの、全体的なビジネスやブランディング、対外的なコミュニケーションなどを統括する人がいないということで、カオナビにCDOとして加わりました。

カオナビ オフィスデザイン(2020年当時)
カオナビ オフィスデザイン(2020年当時)

諸石 デザイナーのキャリアとしてCDOを目指している人もいるかと思うのですが、必要なのはどんなスキルなのでしょうか。最後にお聞かせください。

玉木 会社の規模が50人を超えると、マーケティング部、人事部、総務部、エンジニア部門、営業など、部署がしっかりと確立され事業も何本か立ち上がり始めてくる。そうすると、外部へのコミュニケーションの数も圧倒的に増えていきます。それまではいち製品だけを売れば良かったし、みんなが部署や職務を越境することで成り立っていたものの、細分化されるほど各部署が勝手にデザインをやりだす。それが知らないうちに世の中にでていくことを防ぐために、関門をつくらなければなりません。そこでそれらをチェックしすべてのコミュニケーションに責任をもつために、各プロダクトだけでなく、“会社として”コミュニケーションをするために、デザインを統括する人が必要になるわけです。

そのためまず必要なスキルは「コミュニケーション」。そして、「オーバービューできること」と「マクロな視点でモノを作ることができるスキル」も求められます。それらがなければ信頼してもらえないんですよね。そのためCDOは、オールマイティな経営者のマインドが不可欠だと思います。

諸石 玉木さんのホームページに掲載されていた、「デザインはROIを出しづらいとささやかれますが体系化できないからであって、きちんとビジネスをデザインすれば結果をでる」といった言葉がとても刺さりました。デザインで経営的なインパクトをだすことに言及されているのも印象的ですが、利益を上げるためにデザインで意識していることはありますか?

玉木 「A/Bテストを行い、CVRが上がったほうを採用する」といったところにデザインが寄与すると考えがちですが、デザインとビジネスの関係はもっと深いと思っています。たとえばゲーム『スーパーマリオ』のなかでマリオを動かすとき、説明書は読まないですよね。言い換えれば、説明書を読まなくても操作することができる。そう考えると、取り扱い説明書やカスタマーサポートが要らない製品が優れている、と言えると思うんです。つまり、完璧なデザインであれば、カスタマーサポートをなくすこともできるはず。ただ、デザインを理解していない経営者はそれに思い至りません。

諸石 日本企業のBtoCサービスでも、デザインへの投資額を下げる代わりに、カスタマーサポートのコストが急激に増えているような企業もありますよね。

玉木 とくにSaaSのサービスで売上を伸ばしていく際、クライアントさんが増えるほどカスタマーサポートとカスタマーサクセスのコストも上がっていくためそこと付き合っていかなければいけないのですが、その定説はデザイナーが覆すことができると思います。デザインを自分で作ったことがない経営者はそこに気づきにくい。部品のように扱われがちなプロダクトデザインひとつとっても、クオリティを上げれば、先ほど挙げた人件費カットにも貢献でき、企業の組織構造さえ変革できます――。そういった視座をもった話を経営者とできるかどうかが、CDOにとって大切なのスキルではないでしょうか。