体験の神髄は「感じ取る」こと
デジタルを主戦場としたクリエイティブが市民権を得て20年。私たちは目まぐるしく変わるこの世界で、常に時代と向き合いさまざまなチャレンジを行ってきた。
インターネット、SNSから、スマートフォンの普及、クリエイティブツールの一般化・民主化、そして「クリエイティブの文化的市民権」の獲得。コロナ禍を経て急速に進んだ技術発展と価値観のリセット、さらには生成AIの登場……。大げさではなく、今クリエイターは「中世のルネサンス」に匹敵する、大変革期の中心に存在していると言えるのだ。
しかし一方で、あらゆる情報の洪水と目まぐるしく変わる世界に翻弄され、どうすべきか道に迷っているクリエイターが多いのも事実だろう。
そこでこの連載では「クリエイターとしての意識の原点回帰」を目指し、デジタルの枠を超えて、クリエイターとしてできること・目指すこと、そして生き残る術を見定める目を養うことを目標に、その糧となる「コンテンツ」を紹介していきたいと思う。クリエイターの皆さんに今こそ体験してもらいたいコンテンツを選りすぐっていきたい。
大前提として、体験は「摂取」するものだ。私自身が体験し、インスピレーションを受けたものを紹介していきたいと思うが、皆さんにもぜひ実際に“体験”してもらいたい。その体験をもとにさまざまな思考に思いを巡らせ、「ここに感動したな」「これは物足りない」「自分だったらこうしたい」「こういったアプローチは自分のクリエイティブにも取り入れられそう」といった気づきを持ってもらえたら、私自身も嬉しく思う。良い部分も悪い部分も感じ取ることこそが「体験の真髄」なのだ。
ライブの新しい楽しみかたや視点を提案する「没入型音楽体験『MUUUSE』虎ノ門」
記念すべき第1回は、開催中の「没入型音楽体験『MUUUSE』虎ノ門」を紹介する。
身体ごと音楽に没入する新感覚の音楽体験ミュージアムと銘打ち、東京・虎ノ門ステーションタワー45階「TOKYO NODE GALLERYA/B/C」で開催されている期間限定のイベントだ。
コロナ禍において、ライブの楽しみかたやありかたは変わってきた。VRやARもさまざまな可能性が試されてきたが、MUUUSEでは「ライブ」の新しい楽しみかた、視点を実験的に提案している。
会場は、順を追って体験していくウォークスルー方式となっている。
GALLERY A「自然の記憶」 真の意味で音に埋もれる体験を
最初は、GALLERY A「自然の記憶」は、臨場感あふれる「自然の音」を体験していくエリア。ヤマハイマーシブオーディオソリューションAFC(アクティブフィールドコントロール)の能力を最大限活用した全天球型の没入空間となっており、中央にある球体に手をかざすとインタラクティブな反応が得られる。自然と一体化し、音のシャワーに身を委ねるような体験が魅力だ。
会場にはビーズクッションも配置されており、横になって天井を見上げることもできる。真の意味で音に埋もれる体験は、ここでしか体験できないので、ぜひここはゆっくりと味わっていただきたい。個人的には、どういう仕組みになっているのかが気になり、装置を探し歩いてしまった。それくらい、技術的興味をそそろられる。