今、求められる「企業の社会活動」とは ハフポスト日本版・泉谷編集長と博報堂のクリエイターが考える

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2025/03/18 11:00

“実態”をともなわせることの重要性 問われる企業のスタンス

菅(博報堂) 今の時代は、無理やり「良く見せよう」としても見抜かれてしまいますよね。そうだからというわけではありませんが、だからこそ関わっている全員が本気になって、その姿勢を示していくことが重要なのだと思います。そのうえでは、仲間を作って継続していけるか、もポイントになりそうですよね。

泉谷(ハフポスト) 本気で動いているかという意味では、意見がわかれるテーマに企業がどこまで踏み込めるかも気になりますね。社会課題には政治と関わる問題も大いにあります。たとえば、同性婚の実現に賛同する企業があったとして、政治家が差別発言をしたり改革に反動的だったりしたときに、アクションを起こす企業とそうでない企業がいたら、消費者は後者に厳しい目を向けるようになっています。

 非常に難しい課題ですね。企業側の責任者も、自分が詳しくないと突っ込んで発信したりアクションしたりすべきではないと考えがちですし、私自身も「ジェンダーには詳しくないから」と積極的に発信できていない部分があります。

とはいえもちろん、何もしないで良いわけではありません。企業としてまずは発信しつつ、実態をしっかりともなわせる。こうしたバランス感覚が求められる時代なのだと感じています。

泉谷 「事業と関係のあるところから始める」というのはポイントな気がしますね。

企業が旗振り役となって、社会を変えるには

 ここまでの話をふまえ、企業が旗振り役として社会を変えていけるのか、そのためにはどういったポイントがあるのかを考えてみると、私は「変えられる」と信じています。「晴れ風」もそうですし、生活者の暮らしに溶け込み、接点を数多く持っている商品はたくさんありますよね。たとえば、ビールであれば日本では約5,400万人が飲んでいると言われていますが、この人たちの意識が少しでも変われば、行動も変化し、結果的に大きな力となって社会を変えていけると思っています。「元気玉」のように、どんどん輪が広がっていくイメージです。

ただ、いち企業だけでは難しいので、周りを巻き込んでいくことですよね。そこでのポイントは「良い距離感があるか」かなと。ビールやお菓子のプロジェクトに、小売店だけが賛同しても「それは商品を売るための取り組みでしょ」と思われてしまうかもしれません。しかし、これがたとえば商品と直接の関係がないエネルギー系の企業も賛同していると、消費者としても「なんで関わっているんだろう?」と気になるのではないかと。

こうした「なぜ」という好奇心から少しずつ意識が変わり、最終的にこれまでになかった変化につながる気がしていて……。そしてそれらを束ねる存在として「メディア」が非常に重要ではないかと考えています。何かを旗印に掲げ、仲間が集まってくるイメージです。

泉谷 やはりわれわれメディアとしても、アジェンダを設定して新たな課題を発見する存在でありたいと常に考えています。そのうえで昨今はSNSなどでも「自分の知りたい情報しか見たくない」というスタンスの人が増えていることから、あらためて「モノ」の持つ重要性にも注目しています。

ニュースを中心に情報の分断が進む一方、そうした壁を超えるために「モノ」の持つ役割ってきっと大きい。何かの記事を見て「自分の考えとは違うけど、モノ自体はおもしろそうだから買ってみようかな」と考える人も多いはずで。こうした「モノを入り口として社会を変える」という意味で、企業の役割は大きいのだと思います。

 泉谷さんがこれからより注力したいことなどあれば、ぜひお聞きしたいです。

泉谷 さまざまなニュースを見ていると人間は想像以上に、もともとは利己的な存在なのだと感じる出来事が最近とくに多いですよね。一方、人間社会は少しずつ良いほうに向かっていく力もあって、本来利己的な私たちを、いかにソーシャルな存在にしながら良い方向への流れを強化していくか、は力を入れていきたいテーマです。

その一環として、ハフポストでは読者の方を集めたミーティングを実施しています。読者は皆、それぞれの場所でより良い社会を目指して活動したり、したいと考えながらも壁にぶつかったりしているかたが多いと思います。その思いを持ち寄って議論しながら前に進んでいくための居場所をつくることがメディアの役割だとも思っているので、今後も取り組んでいきたいですね。菅さんはいかがですか?

 私は、「良い未来」のビジョンを掲げて「賛同する人たちが集まって変化の流れをつくっていく」といったうねりを生んでいきたいです。そして、そのビジョンをつくるのが、われわれ博報堂のミッションのひとつだと考えています。そのためにはハフポストや泉谷さんと一緒に取り組めることもたくさんあると思いますし、ぜひ引き続きよろしくお願いします!