「理念」にとどまらず「プロダクト」に落とし込めるか
泉谷(ハフポスト) ハフポストの日本版は2013年にスタートしたため、2023年に10周年を迎えました。さまざまなイベントを開催し、気づきを得るきっかけになりました。
テーマにしたのは、それまでハフポストが課題として提示してきたSDGsをいかに広げ、それぞれの立場の人が実施できるアクションにつなげていくか。そのアクションの手がかりにしたのが、森永製菓など食品系企業のおもに研究開発部門のかたが有志で運営している団体の存在です。
団体の皆さんは、サステナビリティを志向した商品を開発したいという思いがありながらも、どうすれば売れるのかということに試行錯誤されていました。「何か取り組みたい、でも売れない」と悩みながら、上司をいかに説得するかのロールプレイングをしたり、会社の壁を超えていかに商品の形に落とし込んでいくかを議論したり、皆さんの苦労や努力にこそ光があると思ったんですよね。
そこで、団体の方と一緒に渋谷でキッチンカーを出店し、試食してもらいながらトークをする、読者交流会のようなイベントを開催しました。
菅(博報堂) こういったアクションは「儲かるか、儲からないか」を気にして小さく始めてしまうと上手くいかないんですよね。つまり、本気でやり切らなければいけない。その後、ある程度の成果が出れば、世の中からの見えかたも変わります。ここまでできれば「味や機能が同じなら、社会貢献できるほうが良いよね」と、さらに大きな動きにつながっていきます。
泉谷 SNSが発展したのも一因ですが、昨今は「理念」についての情報だけが増えすぎて、本気度を測りかねるケースが多いですよね。ここ数年、「SDGsに取り組んでます!」という企業の声は多く聞く一方、「SDGsウォッシュ(※)」などの問題も生じています。
※SDGsの取り組みを推進しているように見えるが、実態が伴っているとは言いがたい状態を指す言葉。
厳しいことを言うと、理念だけ掲げるのはとても簡単なんです。重要かつ難しいのは、そこからアクションにつなげられるかどうか。多くの消費者もこの点に気づいて「この企業は本気なのか」をシビアに見極めているのではないでしょうか。
こうした背景から、ハフポストではサービスや商品を主役にした「Behind the Innovation」という企画を始めました。従来では「理念」や「思い」にフォーカスしようと「人」が主役になりがちだったところをちょっとずらしてみようと思い、「プロダクト」視点の企画にしました。開発の背景のなかには「理念」も入ってはくるのですが、入り口を変えたのはとても反響が大きいですね。

菅 CMに関する調査で、以前は「ユーモアがある」といった評価を集めたCMが上位だったのですが、最近は「モノそのもの」を評価することがトレンドになっていますよね。「思いをしっかりモノとして体現できているか」を評価する人が増えているのだと感じます。
ポイントは「弱み」を隠さず愛されること
菅 一方で、周囲の評価を多くの人が気にする時代でもありますよね。一般的に、消費者が評価するのは“ヤバい”商品、つまり何かが閾値を超えた商品、ですが、今は均質化が進んでいます。その結果、周りのクチコミを参考にして商品を選ぶ人が増えていると感じています。
この点、広告は一方通行な側面があって、誰かに本気で「これ、良いよ」と表明してもらうには、しっかりとインサイトを掘り下げて納得感を持ってもらう必要があります。これは再現性が生まれにくいものなので、毎回悩みながら取り組んでいるのですが……。
泉谷 企業がその商品やサービスを通じて、社会とどう「会話」をしようとしているのかを人々は見ているのだと思います。企業の一方通行の理念だけではなく「自分の気持ちがそこに反映されている」と感じることで読者は安心感や納得感を得られるんですよね。ハフポストのネイティブアドも、その点が人気の理由だと思います。
また広告を含む企業活動と言うと、どうしても「弱み」を隠そうとしがち。何でもかんでも粗探しをされてしまう社会なので仕方ない部分もありますが……。
ですが、人間の感情を動かすのは、菅さんのおっしゃっていた「閾値」を超えていくもの。ただ完璧なもの、正解を知りたいのであればAIに聞けば済む時代が近づいているなかで、それだけじゃない、弱みも含めた琴線に触れる「本物」をいかに見せられるかが、広告を含めた企業コンテンツでも非常に重要になってきていると感じています。
菅 愛される「弱み」を上手く出せている企業は、SNS上でも強いですよね。