「おいしさの次にデザインが大事」 BAKEの根底に流れるブランドのありかた
―――まずご経歴と、おふたりが考えるBAKEの特徴について教えていただけますか?
柿崎 実は私たち、武蔵野美術大学出身の同級生なんです。サッカーの授業が一緒だったんですよ(笑)。科は別々で、私はグラフィック系の学科を卒業したあと、デザイン事務所に10年以上在籍していました。そこでは化粧品や飲料、お菓子といった一般消費財のパッケージデザインを行い、企業のコンサルティングなどを含めたCIなどに10年以上携わりました。
BAKEに入社したのは、2015年。最初はBAKE CHEESE TARTを担当していたのですが、それと並行してPRESS BUTTER SANDの立ち上げを行いました。現在は、既存ブランドのシーズナルプロモーションや、新規ブランドの立ち上げが主な業務です。
勝部 僕は大学を卒業後、20代は設計事務所やデザイン事務所を何社か経験しました。そこで、個人住宅やマンションの建築、飲食店、アパレルショップなど、建築から内装まで幅広く勉強させてもらいました。
そのあとは不動産開発をメインに設計デザインも行う会社に入社し、いくつか事業に携わったのですが、事業者として、デザインの現場に携わりたいと思うようになり、外資系のチョコレート会社に転職したあと、2017年5月にBAKEにジョインしました。現在は、ストアデザインを含めたブランド戦略全般に関わっています。
柿崎 私がBAKEにジョインした創業4年目のころからフェーズが変わってきてはいますが、当時から変わらないのが、経営者をはじめあらゆる部署のメンバーがクリエイティブを想っていること。これは私がBAKEで働こうと思った大きなきっかけにもなりました。最初に創業者が「おいしさの次にデザインが大事」と掲げたことが影響しているのではないかと感じています。
「いちばん大切なのはおいしさや素材。その次にクリエイティブ」という考えのもと、それに見合い、かつそれが伝わるベストなクリエイティブを作るところ。これがBAKEの特徴だと思っています。
勝部 僕らは店舗をデザインするので、実際に店舗で働くスタッフからの要望もたくさんあります。店舗としては「オペレーションをもう少しこうしてほしい」という思いもあるけれど、店舗デザインの大切さも理解してもらっているから折り合いがつくこともある。お互いの良いところを出しあって、「最終的にお客様に何を届けるのか?」がそろっていることが、僕らの強みだと思います。
デザインのキーワードは「鉄」 マテリアルを全部魅せる、そして隠さない
―――BAKEの人気ブランドのひとつ「PRESS BUTTER SAND」を立ち上げたときの経緯とデザイン面のこだわりについて教えてください。
柿崎 PRESS BUTTER SANDは、創業者が北海道出身で、「バターサンドを作りたい!」というシンプルかつ強い思いから生まれたものです。彼には「いろいろな形でバターを楽しみ、バターのおいしさを全部食べたい」という確固たる信念があったのですが、その思いがしっかり起点になるのもBAKEの良さのひとつ。どうやって作り、どう伝えるというブランドの根幹から考えることができるのはとても楽しいですし、BAKEに入って「そこから携われるのか」と衝撃を受けました。
ブランドとして立ち上げるまでには、商品開発の現場に行って焼いている姿や製造ラインを見せてもらったりもしました。最初に驚いたのが、クッキーを焼くときに鉄板と鉄板に挟んで、まるでたい焼きのように1枚1枚焼いていく手法。その鉄板をガスコンロの上に置くのですが、そのイメージがとても職人っぽいなと感じたんです。
そこからインスピレーションを得て、デザインはインダストリアルな雰囲気にしたいと思いました。機能的だけれど、工場にあるような素材と人の温かみが感じられるようにできたらと。
また、色のキーとなっているのは「鉄」。PRESS BUTTER SANDを焼いているのも「鉄」だし、東京駅という「鉄」道拠点への出店が決まっていたなどの理由からです。それに、鉄が溶けたときを想起させるビビットなオレンジを加え、動きのあるオレンジと、工業製品にあるような静的な感じを出せればと思いました。
勝部 ストアデザインのキーワードも「鉄」です。鉄同士の擦り合わさった部分がどんどん研がれ、磨かれていくことで生まれる素材本来の姿で空間全体を構成できたらと思いました。ものの本質を空間に創造したいと。そのため、東京駅店の全面のカウンターも、鉄の塊を無造作に積み重ねたような見せかたをしています。ブランドとして素材の本質にこだわっているところとか、潔さみたいなものを伝えられたらと。
僕らは1ブランド1プロダクトでやっているので、商材が少ない分伝えられるものが限られていますが、材料や製造工程、ぬくもりのある完成商品など、こだわりだけを可視化することで店舗体験をデザインしているため、ある意味見せたくないものがないんです。
柿崎 店舗の設計自体がそういった潔さを表していると、たとえば足元までよく見えてしまうのでお掃除を徹底しなければいけないなど、ハイメンテナンスになってしまう部分もあります。ですがそこを手を抜かずにやることで、ブランドを保つという意識が店舗のスタッフにも芽生えているのではないかと思います。
私たちの店舗は、社員だけでなくアルバイトの方も多いので、そういった方にもしっかりブランドを理解してもらうために、東京駅店のオープン時には、社員もアルバイトさんも一緒にデザインのこだわりやポイントを説明しました。その話を聞いていたスタッフが別の店舗で話してくれたり、催事で派遣スタッフの方にお仕事をお願いするときも、ほかのスタッフがブランドのこだわりを要約して伝えてくれたりしています。
社内でも、ブランドを立ち上げるときには、ブランドストーリーやデザインのこだわりを全体会議で話します。そうすると、営業のときなどにその思いを話すことができるので、それがどんどん広がっていくんです。