BtoB案件の増加とサブスク普及の関係
A.C.O.が携わる案件で最近増加傾向にあるというのが、BtoBとブランディングにまつわるものだ。その理由を倉島さんは、「サブスクリプションの普及が一因にあるのではないか」と独自の見解を示した。
「BtoBサブスクリプションというのは、毎月ある企業やサービスにお金を払っていますよね。つまりクライアント企業は、毎月のようにそのサービスを査定しているような状態にあるわけです。そこで、『いまあるこの機能は使い勝手がいまいちだけれど、来月には改善してくれるかもしれない』というように、現時点での機能性よりも、今後への期待感を持ってもらうことが関係構築として重要になるんですよね」
とくにBtoB向けの社内ツールなどは、一度導入すれば付き合いが長くなることが多いものの、サービスや機能そのものに大きな差があるケースは意外と少ない。
そこで重要になるのが「ブランド」というわけだ。
「サービスそのものに搭載されている機能やできることが同じとなると、決定打になるのは、ビジョンへの共感や愛着、もっと言ってしまえば『なんか好き』という気持ちだったりする。とくにBtoBだと最終決定権は経営層が持っているケースが多いと思うのですが、やはり社員が好きなものを導入したいと思うんですよね。私もイチ経営者としてそう感じます。BtoBも意外と感情のゆらぎのなかで選択されている。それが『ブランド』という言葉に内包されているように思います」
だからこそクライアントとプロジェクトを進めるうえでも「正直な姿を見せることが求められていると思う」と倉島さんは明かす。
A.C.O.では2年ほど前まで、その多くは請負契約であった。ウェブサイトやスマホアプリなどを納品することで対価を得る形だ。だが最近ではブランド設計はもちろん、UIデザイン段階でも、稼働した人員とその時間が対価の基準になることが多くなってきたという。一緒に併走しながら案件を進めていくことにクライアントが価値を感じていることへの表れでもあろう。
「正面に座って『いかがでしょうか?』と提案するのではなく、横についてパートナーとしてお客様と併走していく。極端な言い方かもしれないですが、すべてを正直にさらけ出すことができる会社には勝てないと思うんですよね。僕ら自身がそれをきちんと示すことは大前提ですが、お客さまのそういった『正直さ』を引き出すような役割が求められているように考えています」(倉島さん)
それを受けて津山さんはこう続ける。
「いくら理想的な計画を立てることができても、それが実践できるもので、かつ成果がでなければ意味がない。クライアントが真に必要としているのは、ともにビジネスを考えながら進めてくれる、パートナーのような存在だと思います」(津山さん)
B2Bのビジネスでこれから求められるのは「マイクロブランディング」
今後、ブランディングはどのように変化していくのだろう。そう尋ねると倉島さんは「BtoBが顕著なだけですが」と前置きしたうえで、これから大切になるのは「マイクロブランディング」との見解を示した。大多数に向けてブランドを届けるのではなく、ユーザーの細かな嗜好にあわせたブランドを展開するマイクロブランド化が進んでいるといわれるなか、ブランディングでもそれを意識する必要があるという。
「ユーザーは、あらゆる接点を通じて、そのブランドを感じていますよね。だからこそ、普段の営業活動やカスタマーサクセス、マーケティング、サイトのUIなどそのすみずみまで『こうありたい』という姿勢を行き渡らせることが大切。そういった、マイクロ“ブランディング”が今後はより求められていくのではないでしょうか」
デザイナーが「なぜそうなのか」を論理的に説明するスキルを身につけ、その方法が体系化されていることで、ユーザーが求めることを作るだけでなく、“ブランディング”にまで踏み込むことができる。そうやってプロジェクトの全体にデザイナーが関わることが可能になるからこそ、企業と併走できるのだろう。A.C.O.は今後もさまざまな企業の横にぴたりと寄り添いながら、そしてときには鼓舞しながら、課題解決に向けて走り続けていくに違いない。