確実にできること7割、不確実性のあるもの3割
「面白いアイディア」を実現させるにあたり確実にできること7割に対して、あえて不確実性のあるものを3割くらい残しておくというやり方があります。
これはテレビのリアリティーショーにも近い考え方で、企画の中にある種のルールや目指すべきゴールを設定し、演出として完全にコントロールするのではなく、参加者や出演者にある程度自由に動いてもらう余地を残します。たとえば、一緒に何かを達成することを目指すというゴールは設定しつつ、企画者側もそれがどうなるのかはわからない、といった状態を作るのです。
「結末がどうなるのか誰もわからない」という余白を残すことによってプロジェクト全体に緊張感が生まれ、最後に何かを達成した際の驚きや感動が増幅されます。もちろん、コントロールしきれない不確実性を残すということは、一歩間違うと期待したほどの結果に結びつかない、というリスクと背中合わせでもあります。そのため、どう転んでも企画として成立させるために確実にできることを7割、誰にも結末が読めないものを3割、というバランスでコミュニケーションを設計します。
ここで、私が手掛けた事例をご紹介します。子どもの野菜嫌いを克服させるべく、野菜が苦手な子どもでも食べたくなる野菜料理を作り出すというSEIYUの食育プロジェクト「KIDS LOVE VEGETABLES」です。野菜が苦手な子どもたちにどうやって食べてもらうか、という親の困りごとに正面から切り込んだ取り組みです。
このプロジェクトでは、ひとつの目標となるルールを設定しました。おいしいかどうかを決めるのは100人の子どもたち。料理家とともに野菜料理のレシピを開発して食べてもらい、80%以上の支持率を集めたレシピだけを認定するというものです。つまり「80%の子どもが認めた野菜料理」を作り出す、というのがプロジェクトの目指すべきゴールとなります。
この企画で確実にできることの7割にあたるのは、以下の部分です。
- 食育に取り組んでいる料理家とレシピを開発する
- 事前に一度子供を集めて反応を見てブラッシュアップする
- 本番はワンスプーンで食べてもらい投票する仕組み
一方、3割にあたる未知なる部分は、
- 100人の子供を一同に集め、一発勝負で実証する
- 80%以上の支持率を超えないと認定はしない
- 子供の反応は誰にもコントロールできない
といった部分です。
なぜわざわざ「規模感のある一発勝負の検証」にこだわったかというと、もしこの取り組みを10人くらいの家族に限定していたとしたらどうでしょう。動画表現としては共感性の高いドキュメンタリーが撮れるかもしれませんが、これをもって「日本の親の困りごとを解消した」と言い切ることはできません。
ある程度の統計的な実証も兼ねたリアルな数字だからこそ、目標である80%の支持率を超えることの意義が生まれます。また、どうなるかわからない緊張感のある状況を作ることで、何としてでも目標をクリアしようというチームの推進力につながりました。
週末に幼稚園を借りてこの実証を行ったのですが、結果として、こちらで開発した6つのレシピの内の5つが支持率80%を超えることができました。
ちなみに、もしこちらで開発したレシピのほとんどが子どもの支持を得られなかったとしても、それも含めて正直に世の中に出そう、ということはSEIYUの方とあらかじめ決めていました。世の中の役に立つために、勇気を持って難しい課題にチャレンジする姿勢を示すことが、このプロジェクトの意義だという共通認識を持つことができていたので、そのような判断をすることができました。
「80%の子供が認めた野菜料理」は、動画やデジタルでの発信に加えて全国333店舗のSEIYU野菜売り場でレシピカードとして展開しました。その結果、1ヵ月の間に50万枚以上が手に取られ、野菜の売上も二桁増という結果につながりました。