「面白いアイディア」がプレゼンテーションや承認プロセスを経て予算とスケジュールが決まると、ようやく実現するためのフェーズに入ってきます。実はここからが、そのアイディアを思い描いた通り世の中に出すための始まりなのです。
チームビルディングも企画のうち
まず取り掛かるのはチームビルディング。すでに社内で固定されたチームで動いている場合もあると思いますが、動画であれば映像監督や音楽作家、編集エディター、カラリスト、デジタルであればディレクターやエンジニア、デザイナーなど、多様な職種がアイディアの実現に関わることになります。これはグラフィックでもリアルなイベントであっても同じです。
いつも組んでいる気心の知れたスタッフに声を掛ける、というパターンが実はいちばん多いかもしれませんが、実現難易度が高そうな「面白いアイディア」であれば、考え尽くしたスタッフィングをする必要があると思います。なぜなら、この時点でアウトプットの最高到達点がほぼ決まってしまう、と言っても過言ではないからです。
ここではその一例として、私が手がけた、日本政府観光局(JNTO)の海外向けブランディング動画におけるチームビルディングをご紹介します。これは外国人旅行者を増やすために、おもにヨーロッパのマーケットを中心に日本の旅の魅力を伝えることが目的でした。統合的なコミュニケーションだったことからさまざまな仕掛けがあったのですが、その核となるのが日本の魅力を端的に伝える役割を担う「動画」です。
日本をブランディングする、という壮大なお題に対し、いつも一緒にチームを組んでいるスタッフィングで臨むというのは、確実なクオリティを見込むためにもまず間違いなさそうな選択肢です。しかし、この時は対象となるターゲットがヨーロッパの16ヵ国。そうなると、日本のクリエイティブチームだけで作りあげても、それが本当に言語も文化も異なる現地の人々の心に刺さり、魅力が伝わるものになるのか――。感覚的な部分はどうしてもわかりません。
そこでこの時は「日本とヨーロッパの混合チーム」というスタッフィングを試みました。以前からその作品に注目をしていたニューヨーク在住のドイツ人映像作家に声をかけ、彼を経由してドイツから映像カメラマンをアサイン。撮影も編集も音楽に至るまで、ヨーロッパならではの“感覚”的な部分は、このドイツ人のクリエイターたちと意見を交わしながら作りあげました。
本来であれば、これまで一緒に仕事をしたことがない外国人のクリエイティブスタッフをアサインすることは、コミュニケーション面などのリスクを抱えることになります。ですが、海外マーケットへ向けたブランディングという目的から逆算すると、これは必然だったと考えています。とくに、映像の色調や音楽など、文化的なバックグラウンドによっても好みが分かれる領域に「多様性のある混合チーム」で挑んだことで、感覚的なギャップを埋めることができました。
結果としてこの動画はヨーロッパを中心に大きな反響をもらうことができ、YouTubeでは900万再生超えや世界の広告賞を受賞といった評価もいただきました。
これはすこし特殊な事例のように思うかもしれませんが、どのような案件であっても「誰と作るか?」は仕上がりに大きく影響してくることから、チームビルティングは非常に重要な企画の一部であると思っています。