限られたリソースの中でアイディアを実現するために クリエイターにも必要なプロデューサー視点とは

限られたリソースの中でアイディアを実現するために クリエイターにも必要なプロデューサー視点とは
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 面白いアイディアがあるのになかなか実現まで至らない。斬新な企画を世の中に打ち出したいけれど何から始めたらいいかわからない。そんな風に考えるクリエイター、マーケターの方に向け、本連載では「面白いアイディア」を実現するためのヒントをお伝えしていきます。第6回は、実現フェーズより、クリエイターにも必要なプロデューサー視点についてです。

カギは「クリエイターがリソースまでふくめ舵を握ること」

 どうしても実現させたいアイディアがある、でもそれを実現させるための予算やリソースが絶望的に足りていない――。そんな時、あなたならどうしますか?

 たとえばそれが趣味の活動であれば、自分のできるペースで自費で少しずつ実現に近づければいいですが、いわゆるクライアントワークの場合は、定められた条件の中で期限内にアイディアを実現させなければなりません。そして往々にして、新しいことにチャレンジしようとすると、実現したいアイディアと予算が見合わない、という問題に直面することがあります。

 広告会社のクリエイティブ部門に所属していると、営業やプロデューサーが進行管理や折衝の役割を担うことになるので、何にどれくらいの費用がかかり、どうすればやりくりできるのか、いまいち想像がつかないという人もいるのではないでしょうか。実は、このようなビジネス感覚や予算管理のスキルも、アイディアの実現には“ものすごく”重要であると確信してます。

 実際に、私のチームに入ってきたクリエイターには、アイディアや表現を作るクリエイティブとしての役割に加え、ビジネスのやりとりをするプロデューサー的な役割も持たせるようにしています。フリーランスでお仕事されている方にとっては当たり前の話かもしれませんが、広告会社のクリエイティブ部門に長く所属していると、自分で見積りを作ったことがない、という人も比較的多いのではないでしょうか。

 ここではまず、実現したいアイディアに対して、プロデューサー的な視点で頭を悩ませた事例をふたつご紹介します。

 ひとつめは、日本の現代アーティストの作品をデジタル空間に一同に集めたバーチャルミュージアム「IJC MUSEUM」です。

 

 IJC MUSEUMは「世界中、いつでも、どこでも、誰でも」日本のアートに触れられることを目指し、日本の現代アートを代表する、草間彌生氏、天明屋尚氏、名和晃平氏など、そうそうたるアーティストの立体作品や、再制作困難な幻のインスタレーション作品などを3Dスキャンし、デジタル空間上に再現したミュージアムです。

 建築家の監修のもと原寸大のミュージアムを設計することから着手したり、アーティストが作品を生み出す制作過程や、表現を生み出す哲学に迫るドキュメンタリー映像も作りました。

Exhibition 01/YAYOI KUSAMA
Exhibition 01/YAYOI KUSAMA

 さて、ここまでの概要を聞いて、このアイディアの実現にどのくらいの規模の費用がかかるか、想像がつきますでしょうか?かくいう私も、最初はどこから手をつければいいのかわからず、途方に暮れた記憶があります。

 順番に考えていくと、まずは、このミュージアムに作品を提供して参加してもらう現代アーティスト、その架け橋となるアートの世界に精通しているキュレーター、アート作品をデジタル空間に再現するためのエンジニアやデジタルクリエイター、ミュージアムを設計する建築家など、挙げればキリがない程に多くの人の助けが必要となることに気づきます。

 ここの段階で、実現に向けた交渉や折衝などのプロデューサー仕事をここで誰かに丸投げしていたら、予算に対して一桁オーバーの見積もりがあがってきて終了していたように思います。

 これは身も蓋もない話かもしれませんが、このような状況の場合はアイディアを考え出したクリエイター自身が、その実現のために矢面に立ち続けるしかないと思っています。そのアクションのひとつとして、ミュージアムに作品を出してもらいたいアーティストに対して、ひとりずつアポイントをとって企画書を持って説明に伺いました。

 あるアーティストの方は、当初はインタビューの取材依頼のようなものだと思っていたそうなのですが、企画の話を聞いて「ミュージアムを作るの?それは面白い!」と強い関心を持ってもらい「作品の展示だけではなく自身が空間のディレクションもやらせてほしい」という申し出までもらうことができました。

 

 アイディアの実現に賛同して、強い熱量で参加する人を巻き込んでいく。そのうえで、限りある予算やリソースをどこにどのくらい投下するのか、どの部分を抑えるのかを考えながら、理想に近い形で実現させるための舵取りをする。それを、アイディアを考え出したクリエイター自身が他人ごとにせず責任を持つ、ということはとても重要なことだと思っています。

 IJC MUSEUMは、企画決定から実現までおよそ1年を要しましたが、世界でも類を見ないデジタルミュージアムに仕上がったことで、現在でも多くの来場者を集めることができています。

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