デザインが進まずエンジニアの手が止まる 試行錯誤した最初の半年間
このリニューアルプロジェクトの専属メンバーはおよそ10名。そのうちデザイナーは、ソンさんと外部のフリーランスデザイナーの2名で、フロントエンドエンジニアも2名。残りの6名ほどでバックエンドの開発を行っていた。
2018年11月からプロジェクトは始まっていたものの、ビジネスモデルや要件定義に予定より時間がかかり、実際に開発がスタートしたのは翌年の7月ごろ。大規模なリニューアルプロジェクトとしては少人数で進めてきたこともあり、デザイン側、開発側ともにおよそ半年は試行錯誤の日々が続いていた。「とにかく時間が足りず、デザインが出来上がるまでエンジニアは待ち状態になっている」という状況に陥ったそうだ。
「1つひとつの画面にもっとこだわりたい、もう少し時間をかけて考えたいと思う場面も多かったのですが、進めていかないとエンジニアの手が止まってしまう。そのバランスをどのようにとっていけばいいのかとても悩みました」
さらにソンさんの頭を悩ませたのは、デザイナーとしての役割の範囲。どこまでをデザイナーとして進めるべきか、開発側に任せるべき部分はどこなのか。その線引きが上手くできずにいた。
「デザイナーもフロントエンドも人数が十分ではなかったので、できる限りコーディングまで行うことで開発も進めやすいのではないかと考えたときもありましたし、一方でデザインに集中したいという気持ちもありました。最初から開発メンバーのみなさんに相談すればよかったのですが、ひとりでとても悩んでしまって……。
結局、できる人が進めればすぐ終わるのに、自分の得意領域ではない部分まで私が行うのはとても非効率だという考えに至りました。やはりこれではいけないと感じ、『ここから先はお願いします』と自分のできる範囲を明確に伝えました」
開発側の手が止まり、デザインが進むのを待つという状況に直面したとき、PMをつとめていた上月さんも焦りを感じた。
「開発もデザインもお互いに完璧なものを作りたい気持ちはわかりますが、最初からサービスを完璧にすることは難しい。上手く折り合いをつけてもらうべく、『一旦はこの工程まで進めるようにしましょう』といったテコ入れをしていきました」
試行錯誤が続いていたもうひとつの背景には「デザインの進めかた」も関係していた。
今回のリニューアルでは、プロジェクトが始まる段階からアトミックデザインを用いることがエンジニア側でほぼ決まっていた。アトミックデザインとは、ボタン、テキストボックスといった最小単位のパーツから組み立てデザインしていく。デザイン修正のスピードが格段に速くなるのが最大のメリットである。だが本来の手順に従い進めた結果、テンプレートを使用したようなシンプルなビジュアルになってしまった。新規プロダクトにおいて、トーンの確定やコンセプトが反映しづらいことが、スムーズにデザインが進められない原因にもなっていた。
そこでアトミックデザインを活かしながらもその枠にとらわれるのではなく、デザイナー同士で独自のやりかたを模索した。たどり着いたのは、こんな方法だ。まず、サービスコンセプトを軸にトンマナを決定し、それをもとにパーツが多く登場する主要な画面を“先に”デザインする。その画面をふまえ、トンマナとデザインイメージをチームで確定。メインとなる画面から抽出したパーツを単位ごとに分け、アトミックデザインに沿った方法でデザインしていく――。
この進めかたをソンさんから説明したことでチーム全体の理解度が高まり、一気に開発のスピードは上がっていったのだ。