こんにちは。株式会社Synamonで開発責任者をしている西口です。
これまでの連載では、メタバースの概要やその作りかたなどを解説してきました。最終回では、これからのメタバースについて深ぼっていきます。
- 第1回:メタバースとはなにか?
- 第2回:メタバースの空間設計と体験設計
- 第3回:メタバースをつくるためにクリエイターが知っておくべきことは?
- 第4回:これからどうなる?未来のメタバースの話(今回)
クローズドメタバースとオープンメタバース
メタバースについて調べていくと「クローズドメタバース」と「オープンメタバース」という概念にたどり着くはずです。まずはこのふたつについて見ていきましょう。
1. クローズドメタバース
クローズドメタバースとは、ひとつの企業がメタバースのサービスを運用している状態です。現在のメタバースサービスのほとんどがこの形態をとっており、各社がメタバースのスタンダードになるべくしのぎを削っています。サービスは競争することによって洗練されていくので、ユーザーにとっては恩恵が大きいでしょう。この場合、各社のサービスの互換性はなく、サービスAで使っているアバターをサービスBでも使うといったことはできません。
このようなクローズドメタバースが普及すると限られた企業が力を持つことになり、影響力が増すことを危険視する声もあります。映画『レディ・プレイヤー1』ではメタバース内での問題が世界的な影響を与えてしまう様子が描かれており、オアシスはクローズドメタバースのイメージとしてわかりやすいでしょう。
2. オープンメタバース
オープンメタバースは1社がつくるのではなく、複数のプラットフォームやサービスが相互運用されている状態を指します。この場合、Aで使っていたアバターをBでも使用したり、自由な行き来もできるようになります。
今私たちが利用しているインターネット上のウェブサービスは、複数の企業が独立して運用していますが、ユーザーはブラウザを通すことで、インターネットをひとつのものとして体験することができます。これが可能なのは、ウェブサービスが同じ規格で統一されているからです。そう考えると、オープンメタバースも規格が統一されていくことで、相互乗り入れが可能な利便性を獲得していくことになるはずです。
個人的にはアニメ『ソードアート・オンライン』が、オープンメタバースのイメージとしてわかりやすいと感じています。作中でオープンメタバースといった概念の話はでてきませんが、フェアリィ・ダンス編の最後で語られている状態はオープンメタバースと言えるでしょう。
ネタバレを避けるため詳細は省きますが、ザ・シードというマルチプレイのVRゲームを作るためのベースシステムを開発者から譲り受けた主人公が、それを全世界からアクセスできるサーバにアップ。これにより、企業もいちクリエイターも、ザ・シードを活用してオリジナルのVRゲームを開発できるようになります。ザ・シードを使って開発されたゲーム間では、相互乗り入れが可能で、プレイヤーたちは自由に遊ぶことが可能。まさにクローズドメタバースからオープンメタバースへの移行が描かれています。
アニメの中ではゲームの話で閉じていますが、メタバースという大きなくくりでこの形が実現するとオープンメタバースになると考えています。
インターネットは中央集権ではない仕組みの上に成り立っているので、オープンメタバースも、それ自体に特定の管理者のいないインターネットの延長のような世界観になるでしょう。今のインターネットが二次元情報をやりとりする仕組みだとするならば、メタバースは三次元の体験をやりとりする土台となるはずです。
さらに、特定の企業ではなくサービスの運用自体をDAO「Decentralized Autonomous Organization(分散型自律組織)」と呼ばれる組織が行う試みも進んできています。これは、中央集権的ではない分散型かつ公正なインターネットの構築を目指すWeb3の概念とも合致。こういった動きは今後ますます加速していくため、オープンメタバースこそがメタバースの理想形と言えるかもしれません。