ヤフーのデザイン経営をUX戦略から牽引するUX推進本部とは その背景や実践中の取り組みを本部長に聞く

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2022/09/28 11:00

UXが経営目標の一部に 「良いサービス」を実現する仕組みづくりとは

編集部 これまでも品質管理の仕組みを追求してきた中で、なぜ今年4月にUX推進本部を立ち上げたのでしょうか。

町田 今年4月から現在の小澤隆生体制になり、「良いサービスを作る」と「良い会社を作る」というふたつの目標が掲げられました。その「良いサービス」の定義が細かく明文化され全社員にも共有されたのですが、UXにまつわるものが占める割合が高かった。その定義のひとつが「最高のUI/UX」というものです。今までまったくなかったわけではないですが、経営レベルで「UXを最高にしよう」と掲げたのは、ヤフーの歴史でもほぼ初めてと言えるでしょう。

編集部 たしかに「UI/UX」というワードが経営目標のひとつに入るのは珍しいかもしれません。

町田 そのため会社全体で「良いサービス」を体現するための仕組みを整えており、それを運営する組織としてUX推進本部が生まれました。

編集部 UX推進本部の役割や体制についても詳しく伺えますか?

町田 UX推進本部の前身となる部門として、私が統括していた「プロダクト品質推進室」がありました。プロダクトを最低限使うことができる、ユーザーがゴールまでスムーズに到達できる品質を目指すという意味の「当たり前品質」にフォーカスしていた部門です。

ただ「当たり前品質」の土台は整ってきているため、UX推進本部ではマーケティング視点での品質を「魅力品質/事業成果最大化品質」と定め、それを高めるためのチェックも始めました。

編集部 UX推進本部では、このふたつの品質を追求していくんですね。

町田 UX推進本部の中には、プロダクト品質推進部、デザイン推進部、UX品質推進部の3つのチームがあります。その中で、「当たり前品質」を守る役割を担っているのがプロダクト品質推進部。UIガイドラインやデザインシステムの運用や、第三者チェックを推進・運用している部隊です。

「デザイン推進部」では、全社の450名以上のデザイナーを対象にUIガイドラインを周知し、各サービス事例の横展開を進めています。

「UX品質推進部」は、魅力品質/事業成果最大化品質などを体現するチームです。ほかのデザイン責任者による第三者レビューは、経験と勘にもとづくチェックである一方、UX品質推進部が行う「UXチェック」は、魅力品質や事業成果最大化品質を高めるためのものです。

まずそのサービスがどういうKPIを狙い、どこをベンチマークしているのかなどをふまえた上で、国内外の競合を独自に徹底調査。良いUI/UXの特徴を抽出し、その調査分析にもとづいてKSF(Key Success Factor)を定めます。これによって、そのサービスで設定されるべきUIとチェックする項目が言語化されるわけです。このように作成したチェックリストをもとに、リリース前のプロダクトをウォークスルーで確認していきます。

ヤフーのUXはビジネスにも焦点を当てる

編集部 そもそもヤフーにおいて、UXはどのように定義していますか?

町田 一般的にUXという言葉はご存じの方が多いと思いますし、社内でも頻繁に使われるようになってきたのですが、「みんな同じ意味で使っているのだろうか」という懸念がありました。そこでUX推進本部として、UXデザインを「ユーザーの体験を中心に据えながら、ユーザーとビジネスの両者の課題を解決する」と定義。逆説的に言えば、ユーザーのニーズ・課題、またはビジネス要件のどちらかに偏った状態は良くないということです。バランスの取れた状態こそが、適切なヤフーのUXデザインであると定めました。

編集部 ユーザーとビジネスの両方が大切だとしているのは大きな特徴ですね。

町田 そうですね。ヤフーが事業会社であるからという背景もありますが、デザイナーとしてのジレンマも関係しています。

基本的にデザイナーは、ユーザー体験やユーザビリティが好きなんですよね。一方、どうやってビジネスに関与していけば良いのかわからない、ビジネスにコミットしきれないという悩みを抱えていることも多い。ヤフーのビジネスとユーザー体験も分断されていたことがありましたが、UXデザインはユーザーだけではなく、ビジネスでも最適な状態にしていかなければ不完全な状態に陥ってしまうのです。両者のバランスをとるのは非常に難しいですし完璧な勝ち筋はないように思いますが、ユーザーとビジネスの両方に焦点を当てなければいけないと感じています。