フラットなティール組織のための「ファンクションリーダー」
――それ以外に、フラットな組織づくりのために行っていることはありますか?
序列の観点では、最近「○○君」「○○ちゃん」という呼びかたをやめました。年齢が上だとどうしても上下関係が生まれがちになってしまうため、会議や大勢の前でのコミュニケーションでは一律「さん」に変えたんです。そもそも最近は、新卒の若いメンバーが非常に高い専門性を持っていることも珍しくありません。年齢に関係なく、スキルを持った人から学ぶ姿勢はとても重要です。
また、タスクチーム内では解決できない事柄や、専門性のスキルアップ、自身のキャリアに関する相談相手として「ファンクションリーダー」を設けているのもポイントです。いわゆる人事的なピープルマネジメントではなく、プロダクトデザインやエクスペリエンスデザイン、アカウントの専門領域ごとに、年齢問わず、その分野のエキスパートに役割を担ってもらっています。フラットな組織とはいえ、やはりディレクターに伝えにくいことは出てくるもの。メンバーが口に出せず歯がゆいことや専門的な悩みに対応するための役割です。
ファンクションリーダーは2年ごとの任期。もちろん各メンバーは自身の仕事もありますし、ボランタリーにやってもらうのは難しいという観点から手当てを支給しています。メンバーとの1on1の機会も増えますし、非常に負荷が高いポジションであることは事実ですが、この仕組みを始めて1年が経過するころにヒアリングをしたところ、任命した全員が2年目も続投し、現在もその役割を全うしてくれています。自分が悩んだ経験を活かしながら、相談してきたメンバーの成長を目のあたりにし、ファンクションリーダー自身の学びややりがいにもつながったようです。
毎週、ファンクションリーダー同士が集まって相談をする機会も設けています。かつて日本にあった「長屋」のように、誰かが困ったら別の誰かが手を差し伸べることができるように、という意図からです。メンバーとファンクションリーダーだけではなく、リーダー同士でも人と人との温度を感じられるコミュニケーションの場を設けることで、組織運営にも良い効果をもたらしています。
ファンクションリーダーだけでなく、私やクリエイティブディレクター、人事チームが頻繁に1on1をやっているのも資生堂クリエイティブの大きな特徴かもしれません。私の場合、全員と面談をするのには半年ほどかかりますが、各自がどんな悩みのレベルにいるのか、どのようにキャリアを考えているかなどを知る機会はとても貴重なもの。おそらく、一般の会社と比較して、1on1の総数ははるかに多いのではないでしょうか。
“ものづくり”だけの会社から脱却 一過性ではないお客さまの体験デザインを
――最後に、今後の展望をお聞かせください。
資生堂クリエイティブのビジョンは、お客さまの長いライフタイムの中でブランドとのエンゲージメントを高めていくこと。そのために、資生堂クリエイティブの強みである「美」のエッセンスを加えた体験で、多くの方の心を豊かにしていきたいと考えています。
資生堂は「モノづくり」の会社として始まりましたが、モノづくりの一歩先に進み、お客さまの美の体験を創り出すため、クリエイティブはプロダクト開発から店頭開発までサイロ化せずにメンバー全員でのバリュークリエーションを優先するフェーズだと捉えています。
AIとの向き合いかたも、今後の挑戦と言えるでしょう。クリエイティブは手離れしにくい業種でありながら、アジャイルが求められるのが解決すべき課題のひとつです。そのアプローチを変えないと、時間だけでなく現場のモチベーション低下にも影響してしまいます。単なる「効率化」のためだけではない、より質の高いアウトプットを出すためのツールとしてAIがブレーンになればと考えています。直近ではまず、業務プロセスの部分で活用を検討しています。
長期的には、AIがクリエイティビティを担うときも来るかもしれません。アイデアとクラフト、そしてアウトプットの部分で、AIと人間の棲み分けを考える必要もあるでしょう。そういった時代がくる可能性もふまえ、さらに美に対する感度や感性を磨き、資生堂クリエイティブならではの強みを発揮できるようにしていけたらと思っています。
――山本さん、ありがとうございました。