もっとも大切にしている「アイデア」と「クラフト」
――資生堂において、クリエイティブの役割はどのように変化していると感じられていますか。
クリエイティブの範囲が、シームレスに拡大していると感じています。きっとクリエイティブやデザインに従事するすべての方が実感していることでしょう。これはとくに、デジタルツールの影響が大きいですね。クリエイティブのプロセスにも急激な変化をもたらしましたし、ある程度のクオリティのものであれば誰でもアウトプットできるようになりました。だからこそ今、私たちのようなプロフェッショナルには「どのような違いを出せるのか」が求められているのだと思います。
そのなかでもっとも大切にしているのは、「アイデア」と「クラフト」のふたつ。アイディエーションではお客さまをどれほど深く理解し、惹きつけることができるか。そしてクラフティングでは、見えない細部までこだわりぬくか。根底のコンセプトと最終的なアウトプットの掛け合わせが、「WOW」を作りだすカギだと考えています。また、私たちが常に心がけているのは、何かをオーダーされたとき良い意味で期待を裏切ること。期待を超え、裏切ることで相手に心地よい衝撃を与え、感受性に訴えかけることができるはずです。
――では、資生堂クリエイティブとして大切にしているマインドはどのようなものなのでしょうか。
私たちは「美」について徹底的に追求し発信しており、採用面接でも「あなたにとって『美』とは何ですか」と質問しています。資生堂ということもあり、お化粧に話が及ぶことも多いのですが、「ビューティー」とは異なり、「美」はもっと広く、さまざまな解釈ができるものとして捉えています。
ある人の容貌だけでなく、言動や人となりといった個性を美しいと感じることもあるでしょう。また、花の咲く姿ではなく、枯れていく様を美しいと感じ、写真を撮る人もいるはずです。資生堂クリエイティブでは、このように多彩な美をまず「疑う」ようにしています。美しいとされるものは、本当に美しいのか。なぜ、美しいのか――。そうやって繰り返し問い続けることで辿りつける“本質的な部分”もあると考えています。
「独自の美」をとらえ、それに共感したり、素晴らしいと感じてもらえたりするものを作り出すこと。それが、私たちの仕事なのです。