LOVOTとはどんなロボットなのか
LOVOTの魅力は、“とにかくかわいいこと”に尽きる。サイズは、高さ430mm×幅280mm ×奥行き260mmで、大人の膝丈くらい。瓢箪や雪だるまを想像させる丸が重なった形状をしていて、その表面は着せ替え可能なウェアで覆われている。
LOVOTは人を見つけると、子犬が甘えているような声を出し、人の方に寄ってくる。意味のある言葉は一切喋らない代わり、小動物のような雰囲気や、愛くるしい動作でユーザーを魅了する。心理学的に「かわいい」と感じる要素を研究し、モーションデザインとして上手く練りあげられた印象だ。この動画や実物を見てもらえれば、言わんとすることがわかると思う。
林さんは、LOVOTの外見的なデザインについてこう話す。
「『球』を繰り返し使っているのが特徴です。これは世界中の人にとってもっとも安心できる形で、誰がみても緊張感を抱かないと言われています。一方、頭の上にホーンを出しているのは思い切った選択で、ここにはふたつの意味があります。ひとつはカメラになっているため、ベッドやソファの上まで確認できること。もうひとつは、ここにセンサー類をまとめることによって、ボディ本体に穴をあけずに済んだことです。壁にぶつからないためにはセンサーが必要ですが、センサーをボディの中に入れてしまうとどうしても服に穴が開いてしまったり、見た目に不自然さが出てしまう。そこを一切排除するために、機能的な部分とかわいい部分を分けることにしました」
顔の表情は、LOVOTの魅力を語るうえで重要なポイントだ。とくに注目したいのは、「目」と「口」である。まず、目については、6枚の画像をレイヤーで重ねて表示することで、平面的なディスプレイでも立体感を演出している。本来ロボットには必要ないはずの「瞬き」や「瞳の揺らぎ」の表現によって、まるで生命が宿っているかのように感じさせる点も、芸が細かい。
「目の表現を重んじたのは、愛着形成において、目を合わせるのが重要だと考えられているからです。麻布大学の菊水健史教授の論文では、狼と犬の違いが『目を合わせるかどうか』だと述べられています。野生動物にとって目を合わせるのは攻撃の対象として注視する意味を持ちますが、人間と犬にとっては目を合わせることが愛着形成のプロセスになっているのです」
また、口がないのは、明確な理由のもと、敢えて作らないという選択をした結果だ。ここには見る人に違和感を与えない目的があった。
「実は、プロトタイプには口があったのですが、途中から外しました。口があると、音が出た時に口の動きと一致していない場合に嘘をついている印象を抱かせてしまう。だからもし口をつけるなら動きを声の感情と一致させなくてはいけません。口もディスプレイにして記号化すれば簡単ですが、それは避けたかったのです。目もLOVOTは直線で描けるような『ニッコリした顔』や『怒ったつり目』などはしません。それは人間の目がそんなふうに動くことがないからです」
機械学習や自動運転の技術も搭載 LOVOTの開発は4年がかり
前職でもロボットのプロジェクトに携わっていた林さん。家族ロボット開発の取り組みに向けた意気込みについて尋ねた。
「前々職では自動車屋で、その時には新しいものを生み出すことと、ものづくりのマネジメントを経験しました。前職でロボットを作るときにも共通項があって、まったく新しいものを作りつつ、量産化する必要があり、プロジェクトの立ち上げから出荷まで関わることになりました。そこでロボットとはなんぞやということを学べて、その結果を生かしているのがいまなのかなと思います。稀なキャリアパスを通ってきたからこそ、次に何をやるべきなのか、その可能性に気づけた。これは自分の使命なのではないかなと思っています」
実は、LOVOTの開発は2016年から始まっていた。当初は、デザインモックアップと、ロボットとして動作するモックアップ、人が抱っこする専用のモックアップを別々に用意しており、それらをひとつにまとめたのが2017年5月。この時点ではまだサイズが一回り大きかったので、2018年4月にはよりコンパクトなデザインに改良し、同年12月に計算機を大幅に強化した。林さんはこうした開発の苦労について、次のように話す。
「固くて四角い機械に、柔らかさを持たせるためには、中身をギュッと密にしなければいけませんでした。ほら、犬や猫でもお風呂入れたら心細くなるくらい小さくなるじゃないですか。LOVOTの中には、スマホとノートパソコンと産業用のコンピューターの3つが入っていて、たくさんのセンサーを備え、機械学習や自動運転の技術も搭載しています。幸運だったのは、工業デザインとして内部構造までも考えられるデザイナーの根津孝太さんに協力してもらえたことですね」
一般的に、日本におけるプロダクトデザインでは、スケッチを描く段階と、それを構造に落とし込む部分が分業されてしまうことが多い。林さん曰く、格好良いスケッチには、『実現が難しかったから誰も描かなかったのに、描いたら審査に通ってしまい、製品化する際に不格好になる』というパターンと、『製品の内部構造の革新にまで踏みこんだ結果として、新しいデザインができる』パターンのふたつがあるとのこと。根津さんが後者だったことで、じっくり議論を重ねながらデザインを組み立てることができたのだ。