「推し活」経済の次のステージへ──自己表現を起点にしたファンと企業の新しい関係

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「推し活=消費活動」ではない 自己表現としての“推す”という行為

 近年、「推し活マーケティング」という言葉がビジネスの世界で定着し、多くの企業がグッズ展開やコラボレーション施策に取り組むようになりました。しかし、「推し活=消費活動」と捉えるのは、表層的な一面に過ぎないのではないかと感じています。

 そもそも「推す」という行為は、グッズを買ったり、イベントに参加したりするだけではありません。ライブに足を運ぶことや、SNSで名前を出して応援すること、ファンアートを描くこと、推しの魅力を語る動画をつくること、誰かに布教すること。そのすべてが“好き”の感情を形にする自己表現であり、立派な推し活です。言い換えれば、「推す」という行動は能動的な感情表現であって、単なる購買行動とは異なる「意味のある参加」なのです。

 ところが、マーケティングの現場では「わかりやすい数値」が重視されがちです。売上、流通量、コラボの話題性といった定量的な指標が主戦場になることが多いため、ファンがどのように推しと関わっているか、どんな思いを持って行動しているかといった「定性的な文脈」は置き去りにされることも少なくありません。「推し活=グッズ購入」を前提にしてしまうと、本来のファン体験を狭めてしまう可能性もあります。

 博報堂とSIGNINGは、人々が「推す」という現象の裏にある心理や行動を「オシノミクス」と名付け、それにまつわる調査レポート「オシノミクス レポート」を発表しています。

 そのなかで、推しの心理を6つのクラスターに分けて分析しているのですが、これを見てみると「推し活に関する価値観や行動はさまざまである」ことが見えてきます。

出典:オシノミクス レポート
出典:オシノミクス レポート

カギを握るのは“コミュニティマーケティング” 今後の推し活の展望とは

 では、これからの推し活市場はどうなっていくのか。私はさらに多様化・深化していくと考えていますが、そのなかでもっとも重要なのが「コミュニティマーケティング」の視点です。これまでのようにグッズやコラボで一過性の盛り上がりを狙う手法では、ファンの心は長く掴むことはできません。本質的に求められているのは、“推しを通じて誰かとつながれる体験”であり、“共に応援し、熱量を共有できる場”なのです。

 このようなファンコミュニティの形成と維持に注力できる企業こそ、今後の市場を制するのではないでしょうか。VTuberをはじめとした推される存在は、すでにファン同士がコミュニケーションを取りあう文化が醸成されています。配信やSNS、ファンアートの投稿など、コンテンツの受け手であるファンが“発信者”として機能し、コミュニティ全体の熱量を高めていく構造が生まれているのです。

 こうした形に自然と溶け込むブランドやプロジェクトであれば、商品やサービスをただ届けるだけでなく、ファンとの共創関係を築くことができるでしょう。具体的には、リアルイベントでの交流機会の提供や、ファンの声を取り入れた商品開発、推し活の記録や表現を支える機能・プラットフォーム提供などが該当します。

出典:Commune コミュニティコンパス「コミュニティマーケティングとは?重要性が増す理由と実践のポイント」
出典:Commune コミュニティコンパス「コミュニティマーケティングとは?重要性が増す理由と実践のポイント

 今後の推し活で、競争のターニングポイントになること。それは「どれだけ丁寧に作れるか」です。熱量の高いファンを顧客としてだけでなく、“共に物語をつくる存在”として捉えられる企業が、真に信頼され、長く愛されるのではないでしょうか。