意味レイヤーで捉えることの重要性
深津(note) 本テキストブックの作成のきっかけにもなっている、デザインが社会に価値をもたらすためにはどうすればいいか、あるいはもたらす価値とは何かなどについて伺っていければと思います。
宇田(富士通) デザインという言葉が広まり、かつものすごく重みを増しているというのはひしひしと感じています。良い意味でデザインが市民権を得ている部分もあるでしょう。そんな時代なので、デザインをより多くの場面で適用するために、デザイン関連のサービスも急増しています。ただ、原点に戻って僕らが考えていることは「果たしてデザインとは何だったのか」ということです。
僕自身は以前エンジニアだったこともあり、システム思考やフレームワーク思考、論理的思考で、日本や富士通を良い方向に変えるべく、いろいろなソリューションで改善提案をしてきました。ところが今振り返ってみると、日本の生活者や富士通の従業員をどれだけハッピーにできていたのだろうか、と思ったりもします。
深津(note) 先ほどの話でいうと、意味レイヤーでなく、ソリューションレイヤーでとらえていた部分が多かったかもしれないと気づかれたんですね。
宇田(富士通) さらにそのソリューションレイヤーも、非常に細切れになっており、その部分だけで考えれば便利でも、よくよく見るととても不便なシステムがあるんです。
深津(note) ドアが素早く開いたり、速度が上がるなどそれぞれは良くなっているものの、人生に対して貢献しているかという視点が埋もれてしまっているかもしれない、という疑問を持たれたのでしょうか。
宇田(富士通) そうですね。富士通で働いていることに対して、自分自身がハッピーになりきれているのかという疑問です。そこで、原点回帰をすることによって、今までシステム思考で押し進めすぎていた部分を解決するための新たな切り口やソリューション、答えが見つかるのではないかと考えました。それを、デザインを活用したうえで企業や社会に対して打ち出していくことが、私の大義だと思っています。
実際に富士通のデザインセンターに依頼していただく課題や問い合わせも変わってきています。いままでは短期間かつ表面的な部分に対する依頼が非常に多かったですが、今は期間も長く、かつモノやサービスではなく、それを使って共感を生み人を動かすこと、まさに「transformation」をしてほしいといった依頼が増えているんです。
つまり、デザインの対象が人や組織に変わったのでしょう。色やサービスだけでなく、ジョン・マエダさんが定義しているクラシカルデザイン(※)をしながらでも、その究極の目標はtransformationにある。僕らとしてもその変化を実感していますし、責任も感じています。
※デザイナーのジョン・マエダ氏が『Design in Tech Report』で、デザインを3つに分けたうちのひとつ。「クラシカルの」デザイナーは、特定の集団のための物理的オブジェクトや製品を作る(建築家や工業デザイナーを指す)とした。参考記事:Takram「Design in Tech Report 2018 Translation」