建築からブランディングデザインへ 構築した方法論とは
――ご経歴や、ブランディングデザインについてお聞かせください。
京都工芸繊維大学で4年間建築を学んでいたのですが、在学中にデザイン経営工学科というデザイン経営を専門にする日本で初めての学科ができました。その学科を立ち上げられたのが、僕の恩師の山内陸平先生で、その影響を受けた僕は、大学院時代はデザイン経営にどっぷりはまり、これはおもしろいとのめり込んでいきました。
しかし学問としては始まったばかりだったため、デザイン経営を専門にするような職業はありませんでした。今でこそデザイン経営が馴染みのある言葉になってきましたが、当時はようやく先端的な企業で導入しようかというタイミング。そのころすでにデザイン経営をスタートしている企業というと海外でも競争力のある電機メーカーだったことから東芝に入社。プロダクトデザイナーとしてデザインセンターに所属しました。デザイン経営を実務で行っている東芝で実践を重ねてみたところ、めちゃくちゃおもしろかったのですが、デザイン経営のなかでもとくに興味のあったブランディングに専念したいと起業を決意。当時まだなかった「ブランディングデザイン」というジャンルを開拓しようと、それを専門とするデザイン会社をつくりました。
ブランディングデザインとは何かを考えたときに、当時の僕は「まるっとデザインすること」が基本だと考えました。たとえば学生時代に取り組むデザインの課題で「あるお店をデザインしましょう」というものがあります。企画から始まり、ネーミング、ロゴ、インテリア、商品のパッケージ、ホームページなど、まるっとデザインしたくなるのですが、実は世の中にそれらすべてをデザインできる仕事はほとんどない。それはロゴ、プロダクト、ウェブ、パッケージなど、それぞれを専門にする会社が存在しており、デザインはほとんどが分業化されている業界だからです。
東芝ではデザインセンターに所属していたのですが、僕が配属されたのは「開発グループ」という部署で純粋にプロダクトデザインに取り組むところではありませんでした。「こういう新しい技術があるんだけどどうしたらいいかな」、「今度展示会にでるんだけどどうすれば良いと思う?」というように、ざっくりとした形でもらった各事業部の課題を一緒に読み解いていくような仕事でした。それを若い頃に経験できたことが、とても良かったですね。
本来デザインで伴走すべきは、たとえば新しいお茶を発売するのであれば「どんな企画」で、「どういうネーミング」で、「どんな売りかた」をしたら良いかといった戦略の部分から。今後10年先を見据えたときにどのようにブランドを育てていくかといった、デザインの上流工程からのデザインが重要だと思うんです。そのため、デザインの具体的な表現はもちろん、企画や戦略まで入りこんでまるっとデザインをする会社にしようと考えました。
ですが、ブランディングデザインは開発に時間のかかる仕事ではあるので、ある程度方法論を確立させてクライアントと事前に共有し、理解を合わせる必要がある。そう考え、起業のタイミングで「フォーカスRPCD(R)」というブランディングデザインプロセスの大枠をつくっていました。このプロセスで初めて取り組みをさせていただいたのがコエドビールさんのリニューアルです。リサーチから入り、企画を立て、コンセプトを開発してデザインする。このプロセスをぐるっと回しながら進めたところ十分な手応えを得ることができたので、それ以降、すべての案件を「フォーカスRPCD(R)」のプロセスにのっとって行うようにしています。