2030年に向けてESGを経営の中核に
――まずは廣瀬さんのご経歴を教えてください。
私は新卒で入社してからクボタ一筋ですが、大きく3つのキャリアの軸があります。1996年に入社し、最初は上下水道施設のプラントや機器の営業職からスタート。その後、水環境事業本部の企画部に移り、おもに財務や管理を担当しながら10年ほどキャリアを積みました。そのままキャリアを重ねていくつもりでしたが、2009年に人事部へと異動。その後、新たに発足したダイバーシティ推進室の室長になり、採用の責任者も兼務になりました。
次の転機が2014年。新たに立ち上げたコーポレート・コミュニケーション部ブランド推進室の責任者に就任。2017年からスタートした国内におけるブランド強化プロジェクトを通し、ブランド認知と理解・好感力向上の取り組みを続けてきました。
2021年には、「クボタらしいESG経営」(K-ESG経営)を目指すためのKESG推進部が発足し、ブランドコミュニケーションの役割もこの部署に入る形となりました。基本的な役割は2014年から同じですが、今の時代やグローバル経営に求められるものが変遷していくなかで、それに応じた取り組みを進めています。
――KESG推進部立ち上げの背景や役割、目標についてお聞かせください。
クボタは2020年に創業130周年を迎え、翌年の2021年に、2030年に向けた長期ビジョンを発信しました。これまでもクボタは、「食料・水・環境」という事業領域で社会課題の解決に長らく取り組んできましたが、地球温暖化をはじめ多くの課題に直面するグローバル社会で事業を通じた社会貢献を持続して行っていくために掲げた目指す姿が「豊かな社会と自然の循環にコミットする“命を支えるプラットフォーマー”」です。
この目指すべき姿を実現するにあたり、ESG(環境・社会・ガバナンス)を経営の中核に据え、さらには「クボタらしいESG経営」のありかたを考え推進していくことが、KESG推進部の役割です。
「クボタらしいESG経営」にはふたつの視点があります。ひとつは経済的価値の追求だけではなく、社会的価値の追求もしていくこと。環境に関わる事業や地域コミュニティへの貢献のほか、社内で働く人的資本に関わる取り組みも不可欠です。もうひとつが、ステークホルダーの方々にクボタが目指す方向性や姿勢に共感してもらい、さらには参画してもらえるような関係づくりを行っていくこと。そのためにも、ブランドコミュニケーションが重要なカギになるのです。
自分に関わりのある企業・ブランドだと思ってもらうために
――ステークホルダーに参画してもらえるブランドコミュニケーションのために大切にしていることはありますか?
クボタは「食料・水・環境」という、人が生きていく上で欠かすことのできない領域で事業活動をしていると自負していますが、それを伝えるためには、自社目線ではなく、「世の中目線」でコミュニケーションしていくことが重要です。BtoB企業のため、ともすると「自社の製品はこういったものです」「こんなことを提供している会社です」とクボタを主語に発信しがちなのですが、そのやりかたでは自分に関わりのある企業・ブランドだと思ってもらうことはできません。
ひとつの契機となったのは、2015年に認知度について調査をしたことです。1990年代に盛んに行っていた広告宣伝の影響もあり、50〜60代では認知度が高かったのですが、20代では認知や事業理解がとても低いことがわかりました。自分に関係のある企業・ブランドだと思ってもらえないことは、大きなコミュニケーションの断絶です。クボタが人々の暮らしのなかでどう活躍しているのか。どういった思いで製品やサービスを提供しているかをより伝えていかなければならないことを実感し、コミュニケーションのありかたを大きく変えていくことになりました。
――廣瀬さんが担当しているブランドコミュニケーションのほかに、KESG推進部ではどんなことに取り組んでいるのでしょうか。
大きく4つの役割があります。ひとつめはK-ESG経営をグループ全体で推進するための旗振り役で、KESG戦略会議の事務局を務めながら、ESGそれぞれの項目の目標値を定め、各部署と連携しながら取り組んでいくこと。ふたつめが、私が統括しているブランドコミュニケーション。3つめが、ダイバーシティマネジメントの推進。そして最後が、北海道北広島市の北海道ボールパークFビレッジにある農業学習施設「KUBOTA AGRI FRONT(クボタアグリフロント)」の運営・管理です。KUBOTA AGRI FRONTは、ステークホルダーに共感・参画してもらうための重要なタッチポイントとして2023年6月末にオープンしました。ブランドコンセプトや空間・体験設計は私たちブランドコミュニケーションのメンバーが担当しています。