必ずしも画力が不可欠なわけではない 商業連載実現のために大切なこと
――まずはご経歴と、編集者の仕事内容についてお聞かせください。
実はもともと、私が希望していたのはマンガではなく文芸でした。ただ、研修などを経験して、マンガに向いていると思われたのか、配属になったのは週刊少年マガジン編集部。結果的に自分のやりたいことができたと感じています。
今振り返ってみると、私が文芸を志望していたのは、憧れている作家さんの近くにいたかったから。つまりそれは、マンガでもできることなんです。実際に、マンガ家さんと踏み込んだ打ち合わせをすることも多く、日々関係を築きながら作品を良くしていく仕事は、文芸もマンガも変わらないと思っています。
基本的なマンガ編集者の仕事は、投稿や持ち込み、あるいはこちらからスカウトするなど、さまざまな形でアマチュアとして活動しているマンガ家さんと出会うことから始まります。そこで「この人はもう商業連載をする力があるな」と感じれば企画の話をしますし、まだ修正すべきポイントがあれば、新人賞をゴールに一歩ずつ階段を上ることができるよう伴走していくのが仕事です。
100人の新人マンガ家さんの担当についたとしたら、賞を獲得できるのは30~40人ほど。さらに長所を伸ばしていき商業連載を目指せるレベルに達することができるのが10人、実際に連載をするのは3~4人といったところでしょうか。もちろん相性もあるため、私が担当している間は商業連載までたどり着かなかった場合でも、担当を変えたり、雑誌を変えたりしながら継続的にフォローできる体制はとっていました。
では編集者がどんなときに、商業連載に向けて動き出せると感じるのか。それは、「こういうふうに読者が喜ぶはずだ」とイメージできるときです。マンガ家さんによって、画力や愛嬌、ストーリーなどそれぞれ強みは異なります。たとえば画力が突出していなくても、キャラクターの愛嬌や、骨太なストーリーがあれば、わざわざ画力を無理に伸ばす必要はない。ですが逆に、画力がなければその人が描こうとしているものが見えないケースでは、その力を伸ばさなければなりません。そのため全員に共通して必要な能力あるわけではないのですが、「マンガ家さんの良さが読者を喜ばせている姿がイメージできるようになる」まで、その人なりの形で力を伸ばしていくことが大切だと思っています。