【ショートドラマ制作の裏側】テレビドラマとどう違う? 両方を経験したプロデューサーが語るヒットの秘訣

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2024/10/18 08:00

見えてきた再生数と売上の相関関係 マーケティングのカギは「切り抜き動画」

――コンテンツをヒットさせるために意識するようになったことはありますか?

最近は「重くなりすぎないこと」を心掛けています。これは、映像表現やストーリーの進めかた、俳優さんのお芝居、制作体制などすべてにおいて、機動力と軽やかさが求められるのがショートドラマなのだと思います。

私たちのショートドラマのマーケティングにおいて重要なのが「切り抜き動画」です。仮説ではありますが、別時期に発表した2作品で「切り抜き動画の再生数」と「ドラマの売上」がシンクロしたことから、そのふたつは完全に相関しているのではないかと考えています。SNSで一定の再生数まで伸びるとある程度の売上を予測できるという、興味深い指標を目にした瞬間でした。こうした背景から「まず切り抜きで認知してもらう」ことを強く意識した企画をつくるようにしています。

また、「全話見たときに、初めて何かがわかる」といった仕掛けは意識的に排除しています。たとえば1クール続くようなテレビドラマであれば、大きな謎やテーマが提示され、ひとつの軸を中心に物語が動き始め、中盤で別の展開を見せる。そして、終盤に向けてまた新しいストーリーが始まり終盤で冒頭とつながっていったり、といった緻密な設計が求められることも多いと感じています。

一方ショートドラマは、どの角度からどのタイミングで観てもおもしろいものにしなくてはなりません。30話あるとしたら、適当に選んだ5話と22話を観た場合でも、それぞれで楽しめるたてつけが理想です。制作側が、SNS向けにどの場面を切り抜くかを戦略的に考えたときも、必ずしも受け手がその順番で観てくれるとは限りません。それよりも、どの場面から見てもわかりやすい登場人物の関係性づくりや、ふとしたタイミングでキャラクターに共感できたり、憤りを感じたりといった感情の揺さぶりをつくるような設計を意識しています。

――どのようにストーリーをつくっていますか?具体的に心がけている点をふまえ教えてください。

最近はサイコパスに見えてしまうキャラクターはなるべく登場させないようにしています。そのようなキャラクターがいると簡単にストーリーに起伏をつくることができ制作側としてもありがたい存在ですし、視聴者もキャラクターの狂気性に惹かれやすい。しかしショートドラマでは、行動原理がわからず感情移入ができないキャラクターが一定数以上いると、途中からドラマを楽しみたいときの入りかたが難しくなります。そのフレームでストーリーを考えてしまうと、前述した切り抜き動画での再生数も見込めなくなってしまいます。

たとえば、『愛の炎罪』という作品では、昔ちやほやされたママタレが、その心地よさから抜け出せなくなり、夫や子供を裏切って不倫してしまう。しかしそんな状況でも、ママタレ不倫妻のとっている行動は人間の根源的欲求に近く、どこか共感すらしてしまうキャラクターになっています。みんなどこか心の奥底で秘めているけれど理性でストップをかけている部分を描いていく。実際には「許されない行為」だけれど「半分くらいは共感できる」部分をもったキャラクターにすると、サイコパスのように行動原理が理解できないわけではないため、物語の途中からでも状況を理解できたり共感したりできます。どの場面を切り取っても、キャラクターの関係性や立ち位置、パワーバランスなどが見えてくる構図が現在の理想です。