[前編]VIリニューアルやデザイナーの採用・育成から見えた、クラシコム流クリエイティブ論

[前編]VIリニューアルやデザイナーの採用・育成から見えた、クラシコム流クリエイティブ論
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2022/09/16 08:00

 ライフカルチャープラットフォーム「北欧、暮らしの道具店」を運営するクラシコムは、世界中の商品やオリジナル商品、コラム・ドキュメンタリー・ドラマ、そしてポッドキャストや劇場映画など、多様な商品群、そしてコンテンツを顧客に届け続けている。一方、それだけの多面性をもつがゆえに、掴みどころがない印象を受けることもあるかもしれない。ただ、どれだけ多岐にわたろうとも、それらすべては等しく「北欧、暮らしの道具店」らしさをまとっており、その根底にクリエイティブの力が働いていることは明白だ。そんなクラシコムはクリエイティブをどのように捉え、つくってきたのだろう。代表取締役の青木耕平さんと、約10年にわたりクラシコムのクリエイティブを支えている佐藤崇さんに話を聞いた。

クリエイティブの役割は「個々の商品を束ねてひとつの価値にすること」

――最初に、「北欧、暮らしの道具店」におけるクリエイティブやクリエイターの役割について、お考えをお聞かせください。

青木 すべてのお客さま、とくにtoCのお客さまに対して、サービスや商品を提供している事業者であれば、クリエイティブが主たる価値の源泉であることは変わりないのではないかと思います。とくに我々のような、何者であるかをイメージや世界観によって感じてもらうことが事業上必要な場合には、クリエイティブとしての質が要求されるのと同時に、一貫性が求められます。いろいろな面を見せていくと、北欧がどういう場所であるのか、どんなサービスであるのかがわからなくなってしまうためです。

そのなかで社内のクリエイターの役割というと、目的に合った一貫性を担保する意味では質のよいクリエイティブをつくることと、それを一貫性のあるものに保つ、つまりディレクションすることのふたつが大きな軸としてあるでしょう。そしてその結果、お客さまが我々の商品やサービスに魅了される価値を生むこともできますし、一貫したキャラクターや世界観を表現することで、我々の商品が自身に合うかをお客さまに判断していただきやすくすることができます。

佐藤 デザイナーの視点からするとデザインは、「北欧、暮らしの道具店はお客さまが自分の居場所であると感じるための表現」だと考えているので、ある程度、世界観はまとめていきたいと思っています。たとえば商品やウェブが表面上よく見えるところではあるので、一定の統一感を持たせるためにクリエイティブが果たす役割は大きい。また段ボールや領収書入れのデザインなどで、購入後、商品が手元に届いたときの印象が、ウェブで見た時の印象と相違がないようにすることも意識していますね。

青木 北欧、暮らしの道具店の商品は、お洋服があったり、化粧品があったり、器があったりとその種類はさまざまです。そんな商品を束ねてひとつの大きな価値にすることが、クリエイティブの役割にはあると思います。個別にまな板やお洋服などを売っているところにクリエイティブはほぼ介在していません。ただ、それをひとつのサービスとしたときに、足し算ではなく、掛け算のように各商品の価値を増幅させるためには、これをくくる世界観やイメージをつくる必要があります。ブランドの価値観が表現された世界観で束ね、ラッピングすることで、より大きな価値を生むことができる。それがクリエイティブの力なのだと思います。

株式会社クラシコム 代表取締役 青木耕平さん
株式会社クラシコム 代表取締役 青木耕平さん

――現在のクリエイティブの体制と、その変遷について教えてください。

青木 ひとりめのデザイナーである佐藤は、私の25年来の友人です。当時彼が加わったときは、社員は10人に満たないくらい。そのときからすべて内製していたと言うこともできますが、素人が集まって良かれと思うことを一生懸命やっていたのが実情です。その当時も一定の世界観をつくることはできていたと思いますし、それを素敵だと感じてくださるお客さまもいらっしゃいましたが、クリエイティブ面も、全体を貫く統一感をディレクションする部分にも課題がありました。クリエイターの質とアートディレクション不在という問題を抱えていた2012~2013年ごろ、デザイナーとしてもアートディレクターとしても信頼していた佐藤に加わってもらうことに。その当時はロゴもありませんでしたね。

佐藤 最初はひとりでウェブサイトのデザインからスタートし、そのうち冊子をつくろう、アパレルをやろうと、どんどん仕事の領域が広がっていって……。取り扱うサービスなどの幅が広がるごとに僕がマネージャーをつとめるコーポレートクリエイティブ室(以下、CC室)のメンバーも増えていきました。

現在のCC室のデザイナーは僕をいれて6人。各メンバーが、商品であればプライベートブランドの開発グループ、ウェブサイトであればテクノロジーグループなど、各部署と連携してさまざまなデザインに関する役割を担っています。たとえば商品デザインの担当は、不具合があればみずから検品をしに行ったりと、企画に近いところから最後までひとりで担当することも特徴だと思います。新しい分野でも専門ではない人が担当したり、さまざまなジャンルに全員で取り組んでいます。

株式会社クラシコム コーポレートクリエイティブ室 マネージャー 佐藤崇さん
株式会社クラシコム コーポレートクリエイティブ室 マネージャー 佐藤崇さん

青木 エディトリアル、プロダクトデザイン、アパレルのデザイン、ウェブやアプリなど、僕らはデザインすべきものが非常に多い会社ですが、整えてから始めたというよりは、実際にやってみて結果がでているものをあとからちゃんとしていく、というイメージが近いですね。自然発生的にすでにいろいろあったものを、ある時期から分野ごとに「ちゃんとしよう」と行っているうちに、現在のチーム編成になりました。

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