デザイナーの視点、スキル、カルチャーすべてが組織を動かす――Mutureに聞くデザイン×経営の可能性

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2023/06/26 08:00

デザイン×経営で目指す先とは

――実際に経営に携わる中で、難しさや課題を感じるのはどのような場面ですか?

 大企業の組織変革にあたっては想定していた問題点も多いのですが、経営していく中でふたつの課題が浮き彫りになりました。ひとつは、上下間の壁を壊して、現場のマインドを優先させようとするあまり、「突破すること」が目的になってしまうこと。もうひとつは、本来達成したい事業成長ではなく部門ごとの目標達成が正義となり、セクショナリズムが発生しやすい環境であることです。

あるとき、ふたつの部署でひとつのプロジェクトを行うシーンがあったのですが、その際、上席へのプレゼンを前半と後半でそれぞれ分担していた。私は「なぜ同じ目的を達成するためのプロジェクトなのに、部署ごとに分担するのだろう」ととても驚きました。こういった場面でふたつの部署でひとつの提案を持ってくることができるようなチーム・環境づくりを目指すべきなのだなと改めて課題を認識した瞬間でしたね。

米永 同時に、そうした大企業あるあるは、想定以上に言語化できることにも気づきました。おそらく丸井グループだけではなく、近い規模の会社も抱えている課題なのではないでしょうか。

 このような課題をどのように解決すべきかをデザイナー視点でとらえてみると、デザイナーが得意だと感じている「パターン認知」と「そこから抽象を取り出すこと」のふたつが役立つと考えています。課題にぶつかったときに「これはあのときのあれだ」と以前の事象との共通点を見つけることが可能ですし、さらにそこで表出した課題を抽象化したうえでソリューションを検討することもできるのは、デザイナーの大きな強みではないでしょうか。

――最後にMutureと個人それぞれの視点で、今後の展望についてお聞かせください。

米永 Mutureとしては、丸井グループほどの規模の会社を「デザインの力でより良く変えた」と言える実績をつくっていきたいですね。2022年は信頼関係とコミュニケーションの基盤づくりがメインだったのですが、その大部分が整った2023年度は、とにかくプロダクトに向き合い良くするフェーズに入ってきたと感じています。丸井グループの事例を世の中に出し多くの人に知ってもらうことで、この規模の会社でもデザインで組織と事業をよりよくできることを証明していきたい。その中心にデザイナーがいることで、大企業でデザイナーが働くことの意義やありかたも見せていけたらと思います。

個人としては、経営と現場の両方に携わる今の形がとても気に入っています。会社の規模が大きくなるなかでどこまでできるかは未知数ですが、現場のプロダクトづくりと経営の両方を担いながらうまく回すことができれば、ユニークなキャリアを体現することができるのではないかと考えています。

 丸井グループには約5,000人のメンバーが在籍していますが、その規模の会社がガラッと変われば社会に対してインパクトを与えることもできるはず。我々としては「この会社を変えるぞ」というより、経験を通して得られた知見をもっと大きく使うことで、デザイナーの力が社会に作用することの成果を出せるのではないかとも感じています。

最近、経営層の会話から将来の戦略を勝手に妄想しているんです。それが不躾にならないよう気をつけながらも、実際にミーティングで提示すると受け入れてもらえる場面も多く、それ自体に価値を感じているんですよね。

デザイナーは具体と抽象の行き来を日常的に行う職業ですが、そのスキルが経営戦略・人材戦略などの抽象論が飛び交う場で歓迎されることも多い。どうしても空中戦になりがちな議論に具体につながる軸を提示できると、「話が整理されてとてもありがたい」というフィードバックをいただくんです。

そのため今は経営レイヤーを飛びまわり、思考を「Connectiong the dots」して方針を導き出すこともしています。これに挑戦できるデザイナーの立場は稀有で価値があると感じているので、この経験をより生かしたキャリアを築いていきたいです。さまざまな人が気持ちよく経営できるよう、この価値の使う先を広げていけたらと思っています。

――莇さん、米永さん、ありがとうございました!