マネージャーとしてのジレンマからたどり着いた「人格の宣言」
――それ以外に、デザイン組織づくりで上手く機能した取り組みなどはありますか?
人数が増えてきたことによって、考えていることや課題に思っていることの意思の統率がとれにくくなってきているように感じていため、社内でコーチングを行っているメンバーに「関係性構築」をサポートしてもらったのは、とても良かったですね。メンバーそれぞれが何を考えているのか、何を課題に思っているのかを知ることができました。
これを実施したのは、8~9人規模へ、チームへ新しいメンバーが一気に加わったときです。とくにジョインしたデザイナーたちは価値観やカルチャーが完全に馴染んでいるわけではないものの、やるべきことがたくさんある状態。僕らは会社としても常に急成長をしているため、求められるレベルがとても高かったんですよね。そんななかでとにかくプロジェクトを前に進めなければならず疲弊しているんじゃないか、余白を持てていないのではないかといった課題がぽつぽつと顕在化していたので、腹を合って話し合ったりしました。
僕はマネジメントの長として判断することは多いですが、権限を委譲していって自己組織化していくことは会社そのものの風土だったりもする。そこを意識した話し合いを行い、どこに向かっていかなければならないのかなどを話すようにしています。
――デザイン組織をマネジメントするなかで得た気づきはありますか?
ひとりめのデザイナーとして入社したのち、デザインマネージャー、デザイン部長とキャリアを進めていったのですが、「成果を最大化させるマネジメント」と「組織をつくり1人ひとりがデザイナーとして成長していく理想的な環境をサポートする」ことのふたつが、自身の中で対立することがありました。
「飴と鞭」と言うのでしょうか、それが二重人格のようになってしまい、メンバーも僕自身もコミュニケーションがやりにくくなってしまう部分があったと思います。本来は相手のためのサポートをしたいのに、ついフィードバックをしてしまうこともよくありましたね。
ですがそういう側面があることに気づいてからは、まず人格を宣言するようにしています。1on1であれば「成長をサポートする」姿勢で会話させてもらっているので、話す内容は、相手の言葉をベースに、取り組んでいることや感じていることをメインにします。チームに何か伝えるときは「成果を最大化するための立場で話します」と枕詞にいれたり……。
ただ1on1でも、基本的には相手に話してもらうものの、もう少し視座を高めてもらいたいときもありますよね。そういう場合は「成果の責任を持っている立場から、こういう考えがあるって伝えさせてもらうんですけど」と前置きをしたりするように。これらを意識するようになってから、コミュニケーションが円滑に進むようになってきた気がしています。
もちろんピープルマネジメントとプロダクトマネジメントがしっかり分かれているのが良いと思うのですが、僕らの会社はまだそのフェーズではない。とくにベンチャー企業は人と経営の両方の側面がマネジメント層に求められていたりするため、そこを意識的に宣言しながら、メンバーにも高い視座を促すようなマネジメントを意識しています。
――最後に、これから取り組んでいきたいことについてお聞かせください。
今でも課題になってきていますが、僕らが取り組んでいる、経営のペインを解決するようなプロダクトは、高いドメイン知識が求められます。かつ構造もとても複雑で、年々プロダクトの難易度は上がっている。そのため、新しいメンバーが入社したときに、PdMと一緒に「ディスカバリー」と「デリバリー」両面の課題を見つけて、それをどのように紐解けば良いのかを考えていかなければなりません。その「ディスカバリー」の難易度も上がっていますし、今まで個人の能力で突破してきたものを標準化する必要があると思います。
「PdMとデザイナーの責務」「より良いディスカバリーの探索工程やナレッジ共有」をしっかりと行うことで、新しいメンバーも円滑に業務を進めることができたり、ひとりで対応しがちなデザイナーをリカバリーできる体制を作っていかなければならない。これが、現在と次のフェーズで取り組むべきことです。
具体的にはOpsやデザインプログラムマネジメントのような、横断の動きを強めていく形になるかなと思っています。ディスカバリーの経験が豊富であったり、等級が高いデザイナーが、ほかのデザイナーをサポートできるような横ぐしの体制づくりを進めていけたらと思っています。
――ありがとうございました!