「社会的インパクト」より痛感したものとは デジタル庁・鈴木伸緒さんが語る、行政とデザインとキャリアの話

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2025/03/27 08:00

なぜ行政を選んだのか デジタル庁デザインシステムがもつ意義

諸石(ヒューリズム) その後、制作会社、インターネット広告代理店、金融系の事業会社などを経て、デジタル庁に加わった理由を教えてください。

鈴木(デジタル庁) 意思決定した当時の純粋な気持ちは「やったことないことをやりたい」「働いたことがない属性の人と仕事をしたい」という思いでした。引き続きテック系企業で働く選択肢ももちろんありましたが、PdM、エンジニア、マーケティング、HR、広報などがいるという組織構成や、ほかの職種のメンバーとの関係性などは、異なる事業であってもいちばん想像しやすい選択肢だと感じていました。100人から2,000人規模へ組織が成長していく過程を経験させてもらったことも多かったんですよね。その点、行政職員という関わったことがない方々と働くことは、新しい視点を得られるのではないかと思ったんです。そう考えて入庁したのが、2022年11月。当時、デザイン組織の人数は、10名強でしたね。

諸石 そうなるとリソースの面からも、すべてのプロジェクトにデザイナーが入ることは難しいですよね。

鈴木 そうですね。そのため考えていたのは、デジタル庁の優先順位に沿ったうえで、できる限り重点的に支援していくと。まず、デザイナーとは何ができる人たちなのかを理解してもらえる状態にしたいと思っていたため、チームと役割を整備し、メンバー全員の力が最大化するように頭をひねっています。

諸石 そのひとつとしてデジタル庁デザインシステム(以下、デザインシステム)の構築にも携わっていたと。

鈴木 私が加わる前からプロジェクトは始まっていたものの、継続的に推進できるリソースはもちろん知見も必要であったため、まずはチームをきちんと組成するところからスタートしました。知見をもったメンバーがデジタル庁に加わってくれたこともあり、少しずつチームを拡大させていきました。

デジタル庁で関わっているさまざまなプロジェクトには開発事業者がいるのですが、デザインシステムのような共通基盤がないと、トンマナやUIを各プロジェクトが独自開発する必要があります。ただ、プロジェクトに専門家がいないなかでも各プロジェクトで品質を保つ必要がありますし、アクセシビリティやユーザビリティのクオリティを担保するのは非常に難しいという課題もあります。

そのため目指しているのは、「このデザインシステムを適用すればアクセシビリティやユーザビリティの品質を担保できる」という状態です。実際にデザインシステムが認知されるようになって、良い変化も生まれてきました。デザインシステムに規定されている内容にのっとって、開発事業者と行政との会話を橋渡しするための共通言語として機能するようになってきていると感じます。

諸石 入庁当時と現在とを比較し、デザイン組織で感じている変化はありますか?

鈴木 ひとつの具体例としては、開発事業者の方がデザインシステムを事前に把握してくださるケースが増えました。デジタル庁内でも「使いやすさの重要性」について理解してくださる方々も増え、利用者視点でデジタルサービスをつくるためのリソースがプロジェクト要件に盛り込まれるケースが増えてきているということでもあります。

デジタル庁ではすべて内製で対応することが難しいため、開発事業者と協業したいことはたくさんあります。設立当初はとくに人数が少なかったこともあり、デザイン関連の要件に整備が追いついていませんでしたが、少しずつ整ってきたと思います。