「社会的インパクト」より痛感したものとは デジタル庁・鈴木伸緒さんが語る、行政とデザインとキャリアの話

  • X
  • Facebook
  • note
  • hatena
  • Pocket
2025/03/27 08:00

痛感したのは「社会的インパクト」よりも「責任」

諸石(ヒューリズム) 2年半ほどデジタル庁で仕事をされるなかで、民間企業との違いは感じますか?

鈴木(デジタル庁) 入庁前は、すべてがゆっくり動いているように見えていましたが、実際に中に入ってみると、決められている年間スケジュールに対してとてもスピーディーに動いていることがわかりました。また、民間企業であれば、数ヵ月から一年単位で目標を決めていくことが多いと思いますが、行政の場合、2年後や5年後などに向けて道筋を立てていく必要があります。行政のワークフローや年間スケジュールに照らし合わせて逆算すると、リードタイムが少ないことが多い。足元からスピード感を持って取り組むことが求められることも、大きなギャップでしたね。

諸石 行政だからこその「社会的インパクト」については、どのように感じていますか?

鈴木 行政のサービスは競合がいない分、提供する際にその責任はとても重いと思っています。デジタルサービスの利用に障害をお持ちの方がいたら、確実に使える状態にしなければいけないですし、使いにくいサービスをつくってしまっては利用する方々から時間を奪うことになってしまいます。たとえば暮らしに関する手続きをするにも、会社で休みを調整し、必要な情報や書類を自分で調べ、出向いて申請すると思うのですが、準備にとても時間がかかったという経験は誰しもあると思います。

申請数100万件の手続きフローで1分削ることができたら、合計で100万分削減できるという社会的インパクトはあるものの、それよりも私が痛感しているのは「責任の大きさ」。代替不可なサービスだからこそ、利用者に寄り添って品質を上げていく必要があるんです。

諸石 最後に、今後の展望についてお聞かせください。

鈴木 デジタル庁の設立と同時に、中央省庁内にデザイン組織が生まれたことはとても大きいと思っています。というのも、海外と比較して公共領域でデザイン関連の仕事をすること自体、日本ではまだ珍しい。デザイナーとして公共領域にチャレンジするといった選択肢を提示することは、デジタル庁のデザイン組織が貢献できる役割のひとつだと感じています。

公共領域で働きたいと思っているデザインに関わる人にとって、これまでは機会が限られていました。だからこそ、それも選択肢のひとつだと思ってもらえるように発信することで、さまざまな公共領域でデザイン関連の専門性を持った方々の関わる機会が増えていけばと思っています。