こんにちは。最近、メンバーと一緒にポッドキャストを始めました、GMOペパボ EC事業部のシニアデザインリードの山林(やまりん)です。
これまでの本連載「カラーミーショップ『仕組み』のデザイン」では、組織やチームでデザインに取り組むための仕組みづくりについてお話してきました。これらは、デザイナーに関わらず「みんなでデザインすること」を目指しています。
連載最後となる今回は、改めてその背景や意味について考えてみたいと思います。
みんなでデザインすることで何か起きるのか
「デザインとは何か」「デザインが果たす役割とは何か」といったデザインの概念は、年々広がり、その重要性も高まっています。単なる視覚的表現にとどまらず、課題解決やイノベーションのための思考法として捉えられ、組織に浸透しつつあります。この流れは、デザインを「専門的で特別なもの」から「誰もが参加できるもの」に変える動きでもあります。私たちは、デザインをデザイナーだけの領域とせず、組織全体で共有し活用することによって、より良いプロダクトやサービスの実現につながると考えています。
デザイナー以外のメンバーもデザインに参加することで、さまざまな視点がデザインプロセスに加わり、より多くの価値が創出されます。新しいアイデアが引き出された結果、ユーザーにとって価値ある体験を提供しやすくなります。
現在カラーミーショップではプロダクト全体を俯瞰し、横断的な視点から一貫したユーザー体験を提供する役割をデザインチームが担っています。しかし理想は、組織全体がこうした視点を自然に持つようになることです。最終的にはデザインチームがその役目を終え、組織の一部に溶け込んでいく未来が理想だと考えています。(カラーミーショップのデザイン組織体制については過去の記事で紹介しています)
こうした「みんなでデザインする」環境を実現するために、これまでの記事で紹介してきた下記のような仕組みづくりを行っています。
- GMOペパボのVI刷新から一貫性を保つ仕組みづくりまで<コミュニケーションデザイン編>
- 複数チームで一貫したプロダクト開発を行う仕組みとは<プロダクトデザイン編>
- ブランドらしさを反映させるイラスト開発のプロセス
- ユーザーニーズの発散から構造化までのアプローチ
- コンテンツ制作の課題を解決に導く「コンテンツストラテジーモデル」とは
- 共通基盤が支えるサービス独自のデザインシステム運用とは
これらの取り組みのなかで大切にしているのは、「デザイナーと一緒にやってみてもらう」こと。一緒に開発を行っているメンバーにデザインプロセスに参加してもらうことで、ノウハウの共有はもちろん、共通言語を持ち協業しやすい環境づくりを行っています。
その推進をともに実行するリーダーを育て、各チームでリーダーシップを発揮してもらうことにより、デザインが組織内に浸透しやすくなります。リーダーたちが担っている役割は、断片的な情報から課題を見つけ、方向性を示すことです。
これらを通じ、デザインが組織全体に浸透し、誰もがデザインプロセスに貢献できる文化が育まれつつあります。こうして「みんなでデザインする」ことにより、組織のケイパビリティが高まり、ユーザーに提供する価値も向上していくのです。
デザインを通じて組織の目標を達成する
事業におけるデザインの目的は「成果を生み出すこと」です。 つまり、ユーザーに価値を提供し、その価値が事業の成長につながることを目指しています。
デザインの成果は、それ単体ではなく市場の動向やマーケティング施策といったほかの要因から影響を受けます。また、事業の売上や利益につながるKPIも複数の指標が複雑に絡み合っているため、「AかBか」のような単一的な思考にとらわれず、多角的な視点で「AもBも」という柔軟なアプローチが重要であると考えています。そのなかで、事業の状況に応じて優先順位を見極める必要があります。
ユーザーに価値を提供するためには、まず私たち自身がユーザーに寄り添うことが不可欠です。事業ドメインによっては、私たち自身がユーザーではないため、ユーザーのリアルな体験や行動を完全に共有することができません。
たとえば、カラーミーショップはビジネスとして商いをされている方に向けたECサイト構築サービスのため、私たちはターゲットユーザーではありません(カラーミーショップを使ってショップ運営をしているメンバーも一部います)。そのため、ユーザーの視点・行動を深く理解するためのコミュニケーションや、共感をするためのアクションは非常に重要です。
テクノロジーの進化により、サービスとユーザーを取り巻く環境は常に変化しており、「正解」はひとつではありません。私たちに求められているのは、多様なコンテキストに応じた解決策を検討し、複数の選択肢から適切なものを選ぶプロセス。エスノグラフィやユーザーインタビューなどのリサーチを通してインサイトを掴むことにより、単なる仮説ではなく、現実にもとづいた解決策の提案が可能になります。
ユーザーに提供する価値を最大化するためには、成果を計測・評価し、より良く改善していくことが重要です。選択した解決策がユーザーの認知や行動にどのような変化をもたらしたのか、その差分や効果を評価します。あらかじめ期待される成果の言語化と、それを定量的に測るためのKPIを設定し、改善前後の比較ができるように元の状態を計測可能にしておく必要があります。
デザインの成果をすべて定量的に測ることは難しいですが、前後比較や改善後の期待値を揃えておくことで、デザインが事業の成長を支え、組織全体の目標達成に貢献しているという実感を得ることができるのです。(デザインの成果を測るための目標設定については過去の記事で紹介しています)